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「好きこそものの上手なれ」~医師の多彩なキャリアを探る~(2/2)

  • 著者:因間 朱里 (東京医科歯科大学医学部4年)
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  • インタビュアー名:INOSHIRU運営メンバー
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  • 留学目的:-

海外で働くことを意識するようになった経緯をお伺いしてきた前半。後半ではいよいよ、木戸先生が実際に各国でどのような経験を積まれてきたのかをお伺いしていきます。そしてその経験に基づいて、進路に悩める医学生への貴重なアドバイスもいただきました!これからのキャリアを考える皆さん、必読です。

INOSHIRU運営メンバー
斉藤:先生の目からご覧になって、アメリカの家庭医療ってどんな感じでしたか。
木戸友幸
あのブログにも書いてあるように、大体アメリカ人にとってニューヨークっていうところ自体がねアメリカじゃないとか言うぐらいでね、その中でも割と上品そうなマンハッタンじゃなくてブルックリンでしょう。そこで救急をいっぱい学んで、アメリカの負の部分も含めて、あれだけの事を3年間で経験できるっていうのは、世界中でもあんまりないなって思ってね。
INOSHIRU運営メンバー
波田:ブルックリン、サウジアラビア、パリと先生は行かれて、やっぱり医療現場っていうのは国によって全然違うと感じられましたか。
木戸友幸
うん。でもその中で飛び抜けて違うのがやっぱりアメリカの医療だと思う。もう20年近く前になるけど、WHOで医療の質の世界ランキングみたいなのを付けるので、全面的に日本が一位になったわけじゃないけども、ぼんやりとした一番のトップが日本だったので、その時のアメリカはっていうとね、20位にも入らなかったのね。
どうしてかっていうと、アメリカではお金さえ持っていればどんな最先端の医療も受けれるけども、そこそこのお金持ちでもそれはできないし、もっと資産も何もない人っていうのは、レジデントが診る救急室の医療しか受けられないっていう、そんな国なの。今でもかなりの部分がそうなんだけども、1980年の初頭とか僕が3年間いた時っていうのはまさにそれ。アメリカでは、少なくともある程度お金があってちゃんとした会社に勤めてて、ちゃんとした保険に入って初めてそれなりの医療を受けられる。逆に、ヨーロッパは日本的なのね。フランスなんかは保険制度に至ってはまだ日本よりも平等性が高いよ。
フランスからの旅行者が日本旅行中に、僕の診療所に来たことがあってね。旅行者で旅行保険のない人っていうこともあって、あんまり貰ったら悪いかなって僕は思ってたんだけど、別にいくら請求してもらっても良いですよ、って言われて。聞くとね、ソーシャルセキュリティっていうね日本の健康保険みたいなのから全額カバーされるんだって。国が違えば色々違いがあって面白いよね。
INOSHIRU運営メンバー
波田:フランスでの医療、パリアメリカンホスピタルでのお話も興味あります!
木戸友幸
パリアメリカンホスピタルでは、イギリス人の医者とかアイルランド人の医者とかが、フランスの医師免許がなくてもその病院の中で医療ができる特別な条例みたいなやつをフランス政府からもらってやっててね。その当時はバブルだったからかなりの数の日本人もパリに進出してて、オフィシャルな数でも3万人くらいかな。パリにいるような日本人は大抵お金を使える人だったってのと、そこの病院では少なくとも英語は通じるということで、日本人の患者さんもたくさんいてね。この病院は全額寄付で成り立ってる病院なのだけど、日本企業も結構かなりの額の寄付をしてくれて、それもあって日本人の医師も入れようということでその第一号で行ったのが僕だった。当時は僕もそんな詳しいことも知らずに給料をもらってやるのかなって思ってたんだけどどうもそうじゃなくて、病院のその外来の部屋をやるには、その部屋を借りて賃貸料払って、開業っていう形でやらせてももらうことになったんだよね。
INOSHIRU運営メンバー
波田:すごい制度ですよね、パリで開業だなんて!私だったら、異国の地で医療ましてや開業だなんて、度胸が足りないからというか、もしどれだけ私が英語やフランス語を話せるとしても、その一歩を踏み出せない気がします。その木戸先生のチャレンジ精神の源みたいなものってどこから来ているんでしょうか。
木戸友幸
それがね、人生長く生きてきたら、結構度胸もつくものだよ。僕だってアメリカ行く前と行ってからは全然違うもんね。だってアメリカに行って最初の半年間は英語が通じなくて泣いて暮らしてたから。そこでの3年間は本当に大きかった。何が勉強になりましたか、ってみんなから聞かれるんだけど、別に大学の勉強はそれなりにやってたし、日本で研修してても、同じくらいの知識とか技術は身に付いたの思う、特に今はもう日本の医療の技術点も上がってきてるし、やっぱり母国語っていうこともあるからね。
でも何が一番アメリカに3年間行って良かったかっていうと、それなりに英語でコミュニケーションが取れるようになってきたことがひとつ。もうひとつが体力の限界を知れたこと。1年目の、3日に1回の三十数時間労働というので、ここまでやったらちょっとやばいから、高圧的にこれをやれって言われても断ろうというのを自信持って言えるようになったっていうか、限界を知れたのは大きいね。
度胸のほかにも、好奇心ってやっぱり大事なんだなってすごい思う。3割くらいの確率でしか成功しないってさっき言ったけど、数打ちゃ当たるっていう事もあるし、数を当てて言ったらなんとなくここでこうしたら上手くいきそうみたいなコツもわかってくる。それでそういうことをずっとやってたら大体人の好奇心ってそんなもう全く180度違うものには出てこないから大体もう何か狭くなってくるでしょう。そういうことを周りに喋りまくってたら、うちの母親じゃないけどね、ちっちゃい情報でも光る情報っていうのを何か知らせてくれる人が出てくるから、そういうことから始めて失敗体験を積みながら行ったらね、最初は3割だった成功率が4割に上がり、5割に上がりっていう可能性が十分出てくる。何が言いたいかって、チャレンジし続けることも大事ってことだね。
INOSHIRU運営メンバー
服部:本当に勉強になります。今のアメリカのお話とかも聞いていて、自分なりにすごい色々考えてたんですけど、もちろんいろんな新しいことに挑戦していくときに好奇心って僕もすごい大事だと思ってて、それに加えて、しかるべきタイミングの時に自分の専門性だったり、自分はこれができるっていう強みみたいなところって多分好奇心と同じくらい重要かなって思ったんです。
あと、さっき自分の限界を知るために厳しい環境に身を置くことも大事っていうお話もあったと思うんですけど、最近は、医師の働き方についての考え方っていうのがなんかすごく変わってきているなっていうのを思ってて。医師っていうのはやっぱりすごく忙して、それで自分の生活がおろそかになって自殺まで考えてしまうみたいなのは、それこそ昔だと普通だったと思うんですけど、最近だと何かそういう側面を見て、自分の生活を大切にしたいって思う医師だったり、医師を志してる人が多くなり始めてるかなって思うんですよね。
木戸友幸
それでいうと、その動きは別に日本だけじゃなくて、アメリカでもいろんな事件をきっかけにして変わってきていてね。1980年の半ばくらいにね、当直明けのレジデントが救急室で、よりによって若い高校生の女の子に間違ったお薬を出してしまって、結局そのあと彼女は亡くなってしまって。その亡くなった女性のお父さん、ニューヨークタイムズの記者だったらしいんだけど、裁判を起こした。もちろん患者遺族側が勝つんだけども、その記者が偉かったところは、自分の娘みたいな人をこれ以上増やしたくないっていうので、今回の件はトレーニングのあまりの忙しさ、厳しさから起こったんだからそれを変えるのが本筋じゃないかっていうふうに言ったんですよ。それもほとんどの人が賛同して、厳しいトレーニングはいくらそれからの医師生活に良い影響を及ぼすって言っても、患者に悪い影響を及ぼしたら元も子もないっていうことでそこからどんどん変わっていったんです。
日本もそこから90年代に入ってから、研修制度の大改革みたいものがあって、アメリカの昔の厳しいトレーニングみたいなものは患者に悪影響を及ぼすっていうので、もっとゆるい制度に変えていったっていう事でね。それに対する反論っていうのはいろんなところからもあるんだけど、その事自体に関しては正論だし、全然問題ないと思うんですよ。ゆっくり暮らせるそこそこの給料が貰えて、当直もあんまり無くて、救急医療にも携わらなくてっていうのが結構今の若手医師とか学生の間でもトレンドっぽくなってきてる。それでね、確かにさっき君が言った、何か専門性を一つ持つっていうのはね、全然それも悪い事じゃないんですよ。僕自身はね、むしろ好奇心が割と多岐に渡りすぎて、何か例えば一つの技術を持った、例えばカテーテルがすごく上手で、どんな難しい病変でも僕はカテーテルで治せますって言ったらもう世界中どこでも別に言葉が通じなくてもそれさえやってれば収入は入ってくるし、っていうのも良いのかもわからないけど、僕はそういうタイプじゃなかったね。人によって何事も合う合わないがあるからねえ、それを知る上でも自分の限界、自分のタイプを知ることは大切だね
INOSHIRU運営メンバー
波田:本当に勉強になります。最後に、この記事を読んでいるであろう、まだまだ自分の将来が不安な学生の皆さんに何か一言頂けますか。
木戸友幸
はい。何か一言で済ますんだったら、やっぱり、好きこそものの上手なれかな。法に触れないことだったらなんでも好きなことをやるのが一番良いと思うし、人生打率は3割程度なんだけど、好きなことだったら失敗したとしてもそんなに残念感は残らないと思うんです。芥川賞作家のお笑い芸人がコマーシャルで言ってるじゃない、2つも3つも好きなことはあるはずだから、1つに絞らなくても良いって。逆に嫌いなことっていうのはね、結果として成功したとしてもあんまり満足感はないと思う。誰かに言われて仕方がないからやってなんとか成果を出したとかいうのはね、もう後になってあんまり良い思い出としては思い出せないね。みなさん、好きなことをやり続けてみてください
今日は楽しかったです。ありがとうございました。
INOSHIRU運営メンバー
因間・斉藤・服部・波田:木戸先生、本日は本当にありがとうございました。

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