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コロナ禍の留学を考える~VIAプログラムの現場から~(2/2)

  • 著者:服部 圭真 (三重大学医学部 3年)
  • 投稿日:
  • インタビュアー名:INOSHIRU運営メンバー
  • 派遣先機関:スタンフォード大学
  • 留学目的:VIAプログラム

VIAプログラムの統括責任者である石田一統さんへのインタビュー、プログラムそのものに関するお話を中心に伺った前半(記事はこちらから)に引き続き、今回は海外留学全般に関するお話をしていただいた後半をお届けします。COVID-19の影響を受け留学が中止になってしまった医学生へのアドバイスのみならず、いまこの状況下でどのように世界に目を向けるべきか、たくさんのヒントが詰まったインタビューとなりました。

INOSHIRU運営メンバー

服部:COVID-19が流行する前と後では「医学生が留学する意義」はどう変化していくのでしょうか?

石田一統

海外留学すること自体の意義そのものは大して変わらないと思います。外に行くことで普段見られないものが見られるので、刺激になります。しかし、これは決して「外が良いから」という理由ではありません。見方が広がるという意味での意義が大きいと思います。やはり、幅広い視野を持っている方が、他の場面での応用がききやすいですよね。また、COVID-19の影響により、気軽に海外に行きにくくなった今、一つ一つの経験を大事にするようになるのではないかと思います。

ですからもし、病院見学などに行ける機会があれば、一つ一つのアクションを大切にしてほしいですね。そして、その機会を十分に活かすためには「下調べ」が重要だと思います。例えば、事前に自分がする質問を準備しておくと、より充実した経験になると思います。

INOSHIRU運営メンバー

荘子:今のお話のキーワードは「アイデンティティの揺り動かし」だと思うんですよね。自分の人生を歩みたいと考えた時に、最初に想起されることは「自分とは何なのか、何がしたいのか」です。それには「相対化」が必要だと思います。自分をいつもとは違う環境に置くことで、自分自身を「相対化」できるんですよね。

石田一統

それも良い結びつけ方ですね。留学は、自分自身を振り返る良い機会だと思います。

INOSHIRU運営メンバー

服部:ありがとうございます。留学を通じて「自分自身と向き合うこと」は大きな意味合いを持つのですね。

COVID-19の影響で留学が中止になってしまった医学生へのアドバイスをいただけますか?

石田一統

留学する時期が遅れたとしても、何か別の方法を模索してほしいと思いますね。そのために、いろんなところにアンテナを張っておくことです。例えば、積極的に人にアプローチすることです。留学が中止になったから諦めるのではなく、とりあえず検討している留学プログラムの運営先に問い合わせてみるなどして積極的に情報収集に努めるのも良いでしょう。そうして自分で作ったつながりが、次に留学できる状況になった時に活きてくる可能性は十分あると思います。また、「言葉が聞き取れなかったから学びを吸収しきれなかった。もう少し語学を勉強しておけばよかった。」という声はよく聞きます。ですので、この時期を利用して英語などの語学の勉強に集中するのも良いでしょう。勉強の仕方はたくさんありますよね。英語だと、テキストや英会話で勉強するのも良いですが、英語を使う場を自分でクリエイティブに考えて作り出してみるとなお良いです。例えば、留学を志す人だけで集まった時に英語縛りで会話してみるなどです。いろいろな学生を見ていても思いますが、間違えても気にせずに喋ってみようという意欲がある人は強いですね。

INOSHIRU運営メンバー

因間:私は留学の機会を失って、英語を勉強しようというモチベーションも下がっていたのですが、今のお話を聞いて前向きに準備をする心構えを教えていただけた気がします。

石田一統

心の準備をしていたのにその機会を失ってしまうと、モチベーションを保つのは難しいですけど、少しづつ次の準備ができると良いですよね。

INOSHIRU運営メンバー

服部:留学が出来ないこの状況でも国際的知見を広げる方法はありますか?

石田一統

自分が興味のある分野で働いている人に実際に会ってみることをお勧めします。先ほどの話と重複しますが、積極的に自分でアンテナを張って、日本にいながらも世界の人達とどうつながれるのかを考えることが大切ですよね。それこそ、INOSHIRUなどの留学サイトを利用していろんな人に連絡してみるなども一つの手だと思います。

INOSHIRU運営メンバー

服部:これからの未来を作る若者に求められる能力は何でしょうか。

石田一統

1点目は、“cross-cultural empathy”です。国際化という意味の異文化だけでなく、違うバックグラウンドを持った人同士の触れ合いという意味での異文化もあります。例えば、障がい者の人とそうでない人、LGBTの人とそうでない人がどうお互いに理解できるかといったことです。そういった意味での“empathy”が出来る人間が、今後開けた未来を作っていける気がします。特に、お医者さんの場合は、患者さんを自分で選ぶことはできないわけです。そういった時に、自分のレンズだけを通して決めつけてしまうのではなく、相手を理解する共感づくりが大事だと思いますね。

2点目は、“global mind”です。自分の国の中だけで完結せず、様々な意味で諸外国と関わる機会が増えてきている現代において、外を意識するマインドを持つことは非常に重要です。私は昔も今も変わらず、日本がどんどん内向きになっていくのを懸念しています。日本が島国で、かつ語学面でも外に出づらいという点は理解できますが、日本だけで完結しないビジネスがたくさん登場しています。その中で国内市場しか考えないというのでは少しもったいないので、もっとグローバルな観点で考えて、日本のアイデアを世界に広げられたら良いと思います。そういった現状を知るうえで「パラダイス鎖国」という本はオススメです。

そして、3点目は“innovative mind”です。これは、新しいものを作り出そうというマインド、態度のことです。VIAプログラムで訪問することのあるシリコンバレーの面白いところは、イノベーションが生まれ続けている点です。その理由は、柔軟な発想のアプローチ、デザイン思考などを身につける人が多いのと、リスクを寛容する文化が成り立っているからでしょう。医療制度を変えるにしてもコロナ対策にしても、いろいろなものに関して何か新しいもの3点を持ち合わせた人材が現れるといいなと思いながら、普段活動をしています。

INOSHIRU運営メンバー

因間:global mindという点でお伺いしたいのですが、石田さんが実際にVIAで活動される決断を後押ししたものは何だったのでしょうか?

石田一統

もともと日本の外に出ることには、旅行でも、仕事面でもかなり興味がありました。3歳から9歳まで父親の仕事の関係でイギリスにいたのですが、高校生の時にまた海外に行きたいなということで、1年アメリカに留学しました。その時に、アメリカの授業は楽しいし役に立つなと思ったんです。例えば、スペイン語の授業を受けた時に、喋れるような教え方をしてもらったり、ちょうどコンピューターが登場し始めた時にプログラミングの授業が始まったりしました。そういう意味での面白さを感じてから、アメリカで教育を受けたいなという気持ちがありました。留学から帰ってきて日本の大学には行きましたが、やっぱり日本の外に行きたいなと思って、2年次の夏にVIAのプログラム参加しました。そこで、スタンフォードで英語の授業を受けてアメリカの教育は面白いなと再確認しました。それと同時にVIAで台湾の人と出会ってアジアのことを意識するようになったことで、世界に日本のことをもっと知ってもらいたいと思って、アメリカで日本語の先生になろうと考えました。そのために大学院に進みましたが、そこで教室での教育にリミットを感じ、また自分自身も満たされない感覚がありました。その時期にVIAでの経験を思い出し、VIAのように人を動かし、短期間で大きな刺激、影響力のある仕事がしたいと思ってカリフォルニアに移り、今の仕事を15年ほど続けてやっています。

INOSHIRU運営メンバー

因間:なるほど。ありがとうございます。若い頃からの海外での経験がいろいろな場面でつながって今のポジションにおられるのですね。

INOSHIRU運営メンバー

服部:石田さんご自身がもしも学生時代に戻れたらやりたかったこと、やっておけばよかったことはありますか?

石田一統

やっておいてよかったと思うことは、海外に行くということですね。本当は1年生の時にVIAに行きたかったんです。でも、留学の費用は高かったので、1年生の時はバイトをたくさんして、2年生でVIAに参加しました。そのほか、当時のVIAでは日本人を東南アジアを連れていくプログラムもあったので、翌年にはまたお金を貯めてタイ、マレーシア、シンガポールへ研修をしに行きました。また、大学で政府開発援助(ODA)の勉強をしていた時に、ゼミの先生がタイとバングラデシュの現場に連れて行ってくれました。また、小さい頃に育ったイギリスを訪れたり、卒業旅行はケニアに行きました。これらの外に行く経験は学生時代にやっておいて良かったなと思います。それで、もし学生時代に戻れたら何ができたかというと、旅行の延長ではありますが、日本をもっと見ておくべきだったと思います。今は日本の外にきてかなり長くなった分、日本にも興味を持っているので、日本の文化や伝統にもっと触れておきたかったというのはありますね。別に今からでも遅くないと思うんですけどね。

INOSHIRU運営メンバー

服部:石田さんのお話を聞いていて思いましたが、やはり行動力がすごいですよね。しかしながら、失敗を恐れたり、不安でなかなか行動に移せない人が多いのもまた事実だと思います。自分もそういった状況に陥ることは少なくありません。そういった人達とはどのように接していけば良いのでしょうか。

石田一統

VIAのSocial Innovationプログラムの参加者から「周りに社会問題に興味がある人がいないから浮いてしまったり、変な目で見られることもある。でもVIAでは自分の居場所がある。」というようなことをよく聞きます。自分を理解してくれる、同じような生き方を目指している人達を探して一緒に夢を見たり、計画をすることによって、自分が付き合う人の「重きの置き方」を変えることは出来るのではないかと思いますね。

INOSHIRU運営メンバー

服部:ありがとうございます。特に医学生だと、敷かれたレールの上を歩くのが普通だと考えている人が多い印象です。石田さんがおっしゃるように、自分と似た考えを持った人とのつながりに少し重きを置いてみると、自分が進む道に自信を持つことは出来そうですね。

石田一統

例えば、日本の医学生は東医体、西医体などに参加するのが当たり前と思っている人が多いと聞きますが、それに疑問を感じていた人が私たちのプログラムに参加し、周りが言うことに囚われる必要はないんだと感じて、日本に帰ってからクラブを辞めた例もありました。人によって考え方は様々ですが、そういう意思決定もある、ということですね。

INOSHIRU運営メンバー

服部:最後のご質問です。石田さんの今後の展望について教えてください。

石田一統

まず、いまやっている仕事は好きなので今後も続けていきたいと思っています。

日本人により豊かに自分の人生のデザインをしてもらうことが、自分の大きなモチベーションです。私は個人的にはプログラム運営が好きで、今は少ししか関われていないので、またメインでやっていければいいなと考えています。また、VIAの創設者の考え方、生き方が自分のロールモデルになっています。彼はVIAの直接の運営を引退してからも新たにNPOを立ち上げてプログラムの運営に主導的に関わっているのですが、そんな彼のように、おじいちゃんになっても教育プログラムを動かせたらいいなという長期的な展望はありますね。

INOSHIRU運営メンバー

因間:Zoom越しにもかかわらず、VIAに対する石田さんご自身のエネルギー、パワーがひしひしと伝わってきました。本日はありがとうございました!

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