
コロナ禍の留学を考える~VIAプログラムの現場から~(1/2)
INOSHIRUインタビュー、今回は様々な種類の留学体験を提供しているスタンフォード生まれのNPO法人VIAの統括責任者である、石田一統さんにお話を伺いました。VIAプログラムのことはもちろん、留学の意義やコロナ禍での留学について、長年留学に携わってこられた方だからこその深いお話をたくさん伺うことができました!
インタビュアー
・荘子万能…2018年、大阪医科大学卒業。2014年の春にVIAプログラムのひとつであるExploring Health Care Programに参加。
・因間朱里…東京医科歯科大学4年。
・服部圭真…三重大学3年。
・斉藤良佳…京都大学3年。

早速最初の質問なのですが、石田さんがVIAで活動を始められたきっかけは何だったのでしょうか?


(※2019年時点で、VIAは医療系学生向けのExploring Health Care Program(EHC)、イノベーションを学ぶExploring Social Innovation(ESI)、異文化交流を目指すAmerican Language & Culture program(ALC)などのプログラムを提供)

具体的なプログラムの内容は時代とともに変わってきましたが、「アジアとアメリカを結びたい」という国際交流の理念は変わっていません。単なる交流にとどまらず、他者への“empathy”(他への共感)を深める、なにか違うものに触れても、その違いを認めて理解する、という意味での異文化交流を進めるのが目標です。また、他への理解を深めて自己を知るというのも大事だと思います。医学生向けのプログラムについては、医学生が外を見る機会がない、ということで1990年代に女子医科大・東京医科大の先生から打診があり、EHCが1996年に立ち上がりました。
日本の春休みが都合がいいということで春に実施してきましたが、8年程前から他国の医学生にも参加してもらえるように、ということで夏にも実施されるようになりました。
社会問題解決に貢献する人材育成を目指したプログラム(ESI)は10年前からです。シリコンバレーの強みを生かそうということで、イノベーションなども取り入れたプログラムにしました。

斉藤:なるほど。形は変えつつコアとなる部分は変わらないということですね。では、VIAプログラムならではの特徴・強みは何だと思われますか?

VIAという組織自体はそんなに大きくありません。しかし、“power of powerlessness”ー小さいからこそ動きやすい、どこに行っても脅威に思われないという利点があります。VIA=Volunteers in Asiaという名前に残っているように、元々はアメリカ人をアジアに派遣していたのですが、60年代のベトナム戦争の終わりの頃にアメリカ人ボランティアを送ることができたり、10数年前に閉鎖的だったミャンマーに入って行くことができた、という歴史があります。これは政府や宗教のしがらみのないVIAだからこそできたことです。支援したいという思いを純粋に伝えることができました。
もうひとつは、小さいからこそニーズに合わせていろいろなプログラムを提案できること。「新しいことをとりあえずやってみよう」という起業家精神でいろいろチャレンジできますね。


斉藤:小さい組織だからこその力、というのがあるんですね!そんなVIAが提供するプログラムを通して得られるものは何だと考えておられますか?

まずひとつには、友情です。プログラムに集まる人が結構面白く、新しい気付きや刺激を受けることもあります。自分自身が学生として参加した時には、日本からもいろんな大学の人が来ていて、自分の周りにはいなかった考えを持つ人に出会ったり、台湾の大学生に会って英語力の高さ・将来への意識の高さに刺激を受けたりしました。人を混ぜることによる化学反応が起きるんですね。ふたつ目は、ネットワーク作りです。ゲストスピーカーに登壇してもらうなどのきっかけで、普段会えない人と会えて、人のつながりができます。
過去に参加した医学生の中には、プログラムを通じて自分では考えていなかった医療の側面を発見し、数ヶ月後にまた先生に会いにアメリカに行く、という人もいたようです。

斉藤:なるほど。日本全国、さらには日本以外からも参加者を募ることでそうしたメリットが生まれるのですね。ではVIAプログラムへの参加に向いているのはどんな医学生だと思われますか?

従来のプログラムでは、3, 8月に4, 5個の動機に関する質問・10分程度の担当ディレクターとの英語面談を行い選考しています。英語面談は英語力の問題というよりモチベーションを確認しています。目的意識がはっきりしている人、まだ医師としてなにをするかは分からないけれど、私はこのプログラムを通じてこれがしたい、というはっきりした意識を選考の段階から持っている人なら、現地で得られるものも多いと思います。向いているのは特にこの学年、というのはないと思います。低学年だとVIAで得た刺激で今後の学生生活を変えていけるかもしれないし、高学年になれば自分が日本で得てきた医学知識や医学教育を、スタンフォード大学や、他の参加メンバーの大学のものと比較をすることで、自分の方向性を見つけるきっかけになると思います。だから、自分を磨きたい、切磋琢磨したい、という人は学年を問わずいいんじゃないかな。
荘子くんは、得られたものはなんですか?

スタンフォードでは、現地の医学生の優秀さを強く感じたとともに、自分たちを卑下する必要はない、頑張れば対等にcollaborationできるなと感じたのは、やっぱり直接行って話をしたからだと思います。


斉藤:ではここからは、COVID-19に関する事柄を伺っていきたいと思います。VIAプログラムも当然影響を受けたと思うのですが、具体的にどのような点で影響を受けられたのでしょうか?

いちばん変わってきたと思ったのは2月頃、アメリカ政府が中国からの旅行者を入れないと決めた時期でした。VIAは3月に、EHCと、神戸市と提携した派遣プログラムを控えていました。
神戸の方はギリギリ派遣することはできましたが、一部のゲストスピーカーによるセッションがZoomでの実施に変更されました。これが最初に出た影響です。場に一緒にいて、というのがなくなり、これまでと同じ経験を提供することは難しいが、どうなるんだろうと思いました。
EHCは、医学生を参加させるとなると医療機関に入ってもらうことはかなり難しいと判断して、実施1ヶ月前に中止を決めました。春に決まっていた参加者には夏のプログラムの参加権利を与えていたのですが、4月頃にやはり厳しいと判断して夏も中止にしました。
来年の春もどうなるかはわかりません。直接来て会うことはなかなか難しい。
今は、accelerator programという、「社会問題の解決に興味があるけどなにをしたらいいか分からない」学生に対してオンラインでmentorをしていく半年のプログラムは継続しています。


医療現場については、どう変わっていくかが分かりません。「用がない人は来ないで」という認識がどうなるかが不透明です。ただ、プログラムの大半が医療現場訪問というわけでもないので、変えないものも多いと思います。例えば臓器移植のセッションで、レシピエントとドナーの家族を呼んでのパネルディスカッションをする、等は続けられそうだと思っています。



荘子:これは医師をどうやって養成するのがよいのか、という問いにも関わってくるのではと思います。実地に入っていいのはどの段階からなのか、感染予防に、何を事前に準備しないといけないのか、等を考えて行く必要があると思います。逆に大きなチャンスだと思うのは、実習的な要素をオンラインで切り出せるとなると、間口が広がる可能性があるということです。現地でないとできなかった内容がもっとアクセスしやすくなり、提供の余地が広がるのでは、と考えています。

大学病院は教育の現場としても使っているので、スタンフォードの学生は現場に入って医師と同じように活動していました。しかし外部の人が入る敷居は上がる可能性があります。アメリカは訴訟社会であることもあり、訴訟のリスク回避のため、責任の所在をはっきりさせる意味で以前から見学ひとつでも書類等の面倒な手続きが結構あったのですが、今回のCOVID-19のことを受けて、より受け入れが厳しくなる気がします。教育現場としての大学病院の使い方が、内外に向けて変わってくるかもしれません。
インタビュー前半、VIAに関するお話はここまでです!VIAプログラムの歴史に始まり、どのようなプログラムなのかを様々な側面から知ることのできる貴重な内容となりました。
後半ではさらに話を広げて、医学生の海外留学全般に関するお話を伺いました!引き続きこちらからお読みいただけます。