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ハーバードMD-MBAコースについて〜ハーバード医学部の10分の1は同時にMBAも取っている事実〜

  • 著者:村上 武志 (北海道大学医学部 5年生)
  • 投稿日:
  • インタビュアー名:村上 武志
  • 派遣先機関:ハーバード大学
  • 留学目的:MD-MBA修士コース

日本でビジネスに関わる医学生や医者が増えている中、アメリカではどのようになっているのでしょうか?
INOSHIRUプロジェクト、インタビュー記事第三弾となる今回は、ハーバードのMD-MBAプログラムに所属するMichael Girouardさんにお話を伺いました。
村上 武志
Michaelさんこんにちは。自己紹介をお願いします。
Michael Girouard
現在Harvard MD-MBA courseのMD-MBAコースの5年次に所属している Michael Girouardです。
村上 武志
どういう経緯でMD-MBAコースに進まれたのでしょうか?
Michael Girouard
もともと私が11歳の時に母親が肺がんになった事がきっかけでした。
母親は無事寛解し今も健在ですが、アメリカでの医療は思った以上に高額で、莫大な治療費を請求されたために当時住んでいた家も立ち退かなければいけないぐらい家計が困窮しました。この経験は幼いながらも自分にはかなり衝撃的で、『この国の医療システムはうまく機能しているものではないんだ』と小さいながらも実感し、これがヘルスケアシステムに興味を持つきっかけになりました。そのような背景があり、大学を卒業した後はMassachusetts General Hospital(マサチューセッツ総合病院)のHealth policy and health economics research部門で働いていました。ここでの主な仕事はコンピュータシミュレーションモデルを作って、HIVに対する治療のそれぞれのコスト効率を分析することです。この経験で医療を臨床の視点ではなくより統合的に見る事ができるようになり、また『どうやって医療が届けられるのか』という事に興味を持ちました。2年間この部署で働いた後にHarvard Medical School(以下医学部と表記)に入学しました。ここで医学を学ぶ中で、やはり自分は臨床以外にも全体のヘルスケアのシステムに興味があるんだと気づきました。
医学部の2年次にMD-MBAコースに申し込む機会があり、ヘルスケアシステムの中でも、研究でPh.Dを取るよりも実際にオペレーションに携わりたいという気持ちが強かった私にとって、どんな組織にも汎用させられるオペレーションの知識を身に付けられるMBAはとても魅力的であり、アプライしました。
村上 武志
そうだったのですね。MD-MBAコースはどのようなコースでカリキュラムが進んで行くのでしょうか?
Michael Girouard
MD-MBAコースでは、1〜3年目を医学部で過ごし、4年目はビジネススクール、5年目は医学部とビジネススクールの両方の授業を受けます。MDコースは4年コース、MBAコースは2年コースに対して、1年間少なく両方の学位を取る事が出来るのが特色です。
私は3年間のMDコースを修了し、今はビジネススクールでの1年間を終えたところです。
村上 武志
医学の知識は放っておくとかなり抜けていくと思いますが。1年間のMBAの詰め込まれたスケジュールの間はどのように医学の知識をキープしたのでしょうか?
Michael Girouard
4年目のビジネススクールでの間は時間的には90%ぐらいはビジネススクール生として勉強していましたが、月2, 3回はハーバードの付属病院に通って医学部生として実習していました。医学についても少し学ぶことで臨床的知識が衰えないようにしています。
村上 武志
それは素晴らしいですね。ちなみにUSMLE(アメリカ医師国家試験)は取っていますか?
Michael Girouard
USMLEはStep1, Step2ともに医学部3年次に、USMLEのStep1とStep2 CKはMBAの授業が始まる3年次最後までにとりました。Step2 CSはまだ取っていません。
卒業後は内科の研修医プログラムになる予定で、4年生の秋にインタビューがあり、5年生の春にマッチングが決まります。
村上 武志
メディカルスクールの中で同時にMBAをとる人はどれくらいいらっしゃるんですか?
Michael Girouard
驚くべきことにかなり多いですね。後で知ったのですが同学年のメディカルスクール生の140人中16人はMBAを並行してとっています
これはMD-MBAコースがアメリカでより一般的になってきた事を表していると思います。10年前まではアメリカでも『なぜ医者がMBAを取るのか』と首を傾げる人も多かったです。しかし今は多くの人に医療にはビジネスの側面がある事が理解されてきつつあり、医療を効果的に牽引し改善するポジションが必要であることが分かってきています。
村上 武志
実際にMBAで学ぶものは医療の現場でどのように役に立っていると思いますか?
Michael Girouard
授業で学ぶ内容はリーダーシップやイノベーションなどのソフトスキルとファイナンス、マーケティングなどのハードスキルがありますが、臨床現場ではソフトスキルはかなり活きるのではないかと思います。
基本的にアメリカの臨床医はチームを組んで働いています。チームでの生産性を最大化する為に、メンバー臨床医にとってはチームの一員それぞれがサポートされ、仕事の結果をちゃんと評価されている環境を作る必要があります。MBAで習うチームビルディングやリーダーシップなどのソフトスキルの授業はまさにそれを助けるものになると思いました。
ファイナンスやマーケティングなどのハードスキルは臨床に直結しているとは思いませんが、臨床医が病院の戦略部門やファイナンス部門で働いた時に役に立つのではないかと思います。
他のスキルにはイノベーションがありますね。現在どの病院もヘルスケアの会社もイノベーションで苦しんでいますが、イノベーションも科学的な裏づけがあって起こるものです。その裏にあるマインドセットと知識を持っている臨床医がいれば必ず病院に還元できると思います。例えば目の前の受付を見て、『なんでこんな待合室が混んでいるの』という事に目を付けられる。そして『何が混んでいる原因なのか』『それをどのように解決できるのか』ということを考えられるのが、イノベーションを起こすためのスキルになるかと思います。
スキル以外にはネットワークですね。MBAのコースでは、ヘルスケアの他にも色々な産業分野で働いている人との繋がりができ、仕事に生きるとても広いネットワークを構築することができます。

ビジネススクールの教室風景

 

村上 武志
ということは、病院の中の戦略部門やファイナンス部門で臨床医が病院の経営に携われる環境があるのですか?
Michael Girouard

そうですね。大半の臨床医は本来の役割として臨床一本でやっていますが、中には私のように、ヘルスケアのより広い領域に興味を持ちヘルスケアシステムの問題を解決したいと思っている人もいます。そのような臨床医は臨床の現場以外だと、患者さんのケアの質の向上やファイナンスや戦略などを担当する部門で働くことができます。臨床医が研究と臨床を両立して行うのと同じように、半分は臨床、半分はそれぞれの専門分野の医者でやったり、80%は戦略部門で、20%は臨床で働いたりすることもできます。そうする事で、臨床側から経営側にフィードバックを与えることもできます。

村上 武志
同時にMDとMBAを追求する事の意味はどこにあると思いますか?
Michael Girouard

両方を同時に学ぶ事で、お互いを相関させて習う事ができるという相乗効果があります。例えばMBAの授業でヘルスケアのトピックが出てきたときに先生から良く質問されます。その時に現在研修している病院の事例について紹介する他の学生や先生からフィードバックをもらったりすることができます。逆に病院実習の中でもMBAのコースで学んだ手法を活かして、どのように病院での作業プロセスを効率化できるかを考えたり、クリニックの原理を見たりすることができます。二番目の利点としては時間の効率がいいことです。MDとMBAのコースは一般的には4年と2年で、両方とる為には通算6年費やさないといけません。それを5年で取れること、さらにMBAを取るために一度働いた後に就いている仕事を辞める必要がないことも魅力的です。

村上 武志
MD-MBAの他の同期はその後どのような道に進む事が多いのでしょうか?
Michael Girouard
ほとんどの私の同期は研修医をする予定でいますね。
一方で同期のうちの1, 2人は、ベンチャーキャピタル、スタートアップ、コンサルティングの仕事を目指しています。
村上 武志
ほとんどの方は研修医をされるのですね。それではMichaelさんは、レジデンシーの後は臨床とマネージメントのどちらに重点を置きたいと思っていますか?
Michael Girouard
臨床も好きですが、将来的には病院の経営陣として働くか、何かしらの会社でヘルスケアチーフとして働きたいと思っています。
以前、ボストンコンサルティンググループのインターンとしてある製薬企業のサプライチェーンの改善するチームに入りました。そこではやはり医学的な視点と経営的な視点の両方を持っているからこそ貢献できることが多かったです。
ですので当面は経営だけでなく臨床にも携わりたいとは思っていますが、最終的なゴールとしてはどんな組織であったとしても戦略に関わるところで働きたいと思っています。
村上 武志
面白そうなインターンシップですね!そこでの業務は具体的にはどのようなものでしたか?
Michael Girouard
私にとって最初のプライベートセクターでのコンサルタント業務でしたが、とても勉強になりました。
クライアント企業の新しい技術導入や、世界中の患者さんに対してアクセスを増やす方法について手助けをし、多くのバリューを届けました。
業務を行う中で、自分が医学とオペレーションを分かっていることで多くの貢献ができていると感じましたし、だからこそとてもやりがいを感じました
村上 武志
他にも色々なインターンをされたそうですが、特に両方の学位を持っている事がアドバンテージになる職種はありましたか?
Michael Girouard
ヘルスケアの分野にもビジネスとして機能している部分があるので、特にどこかの職種で必要になるという事ではなく、ヘルスケアに携わる仕事にはアドバンテージになると思います。
その後それがそのように活きていくかは個人によりますね。私はヘルスサービスデリバリーに興味がありますが、デジタルイノベーション・ヘルスケアファイナンス・医療機器分野に興味を持っている同期もいます。各自の興味のある分野によって、医療分野にどのような影響を及ぼすかも変わってくるのではないでしょうか。
村上 武志
ありがとうございます。ところで、ボストンに6年住んでいるということですが、ボストンの生活はどうでしょうか?
Michael Girouard
素晴らしいですね。
学部卒業後に移り住み、MGHで働いた2年間を含めて6年間過ごした訳ですが、世界中から学生が集まる街で、多くの文化があり飽きないですね。マサチューセッツ総合病院やボストン小児病院、ダナファーバーなどの病院がある他、MerckやGenzymeなどの大きな製薬会社も籍を置いています。大学や研究所、会社が垣根を超えて協力し、それによる新しい化学反応も見られます。ヘルスケアの中心になるべくしてなった場所だと思いますし、だから私もこの場所を選びました。これからもここで研修するつもりでいます。
また、世界中から多くの学生が集まるのでいろんな文化が垣間見られ、出歩くだけでもとても面白いですね。レストラン、食べ物、どれも世界中からの要素があって、とても楽しいです。
村上 武志
最後に、これからの医療についてコメントをお願いします。
Michael Girouard
アメリカの医療には問題がある部分があるという事は明白です。中間所得層以下にはとても高く、値段に対する治療の質も伴っていないことも多いです。その中で臨床医は一人一人の治療だけでなく、そうしたヘルスケア全体のシステムの改善にも責任を持つべきであると思っています。少なくともMD-MBAで学べる事は、そのように広いレベルで医療を変えていきたいと思っている学生のためのとてもいいツールになるでしょう
村上 武志
これにてインタビューは終了です。貴重なお時間をいただきありがとうございました。

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