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二度目のカンボジアで考えた生命の重み――生命はお金で制約されるのか?

  • 著者: 因間 朱里 (東京医科歯科大学医学部4年)
  • 投稿日:
  • 国名: /
  • 派遣先機関:ジャパンハート
  • 留学目的:インターン

こんにちは。東京医科歯科大学医学部医学科4年の因間朱里です。

1年前、2019年3月にもジャパンハート・カンボジアにて短期ボランティアとして活動したのですが、ちょうど1年経った2020年3月、今回は短期インターンとして再び同じ病院に行ってきました。

基礎医学は学んだものの臨床医学の知識はまったくないまま参加したボランティアと、臨床医学をある程度学び終えた段階でのインターンでは、やはり見える世界が違いました。今回はコラムという形で、私の学びを共有したいと思います。

ボランティアとインターンの違い

そもそもボランティアとインターンは何が違うのか、ということから説明させていただきます。

ジャパンハートにおけるボランティアは、非医療者の場合最大7日を活動期間として、医療行為やその他病院の管理・環境向上に関わる活動を行います。私がどのような活動をしたか、具体的な内容に関しては以前の体験記をぜひご覧ください。

一方インターンでは、最低でも2週間以上の活動が求められます。参加にあたっては動機書の提出と、現地にいる日本人スタッフとの1時間程度の面接が必要です。業務としては主にボランティアの対応を行うことになり、医療活動への参加は基本的にはしません。インターンの活動に関して詳細を知りたい方はジャパンハートのサイトをご覧いただくか、あるいは個別にご連絡ください。

最低賃金と救急車?

インターンとして、病院設立の背景にあるカンボジアの歴史をボランティアさんに説明する機会が何度かありました。使用するスライド自体は引き継がれていたので、はじめはただそれを読むだけでも精一杯でした。しかし、自分がボランティアとして参加した時にインターンの方がしてくださった説明がいかに衝撃的だったかを思い出し、自分の説明も誰かの心に残るようなものにすることがカンボジアの医療の向上に多少なりとも貢献するのではないかと思い始めたことをきっかけに、空き時間を使って自分なりにあれこれと調べてみました。そうして自分自身の言葉で語る準備をする中で、いろいろなことを知り、考えました。

留学体験記にも書いた、カンボジアの医療に根付いている医療への不信感と、それゆえの悪影響。これは、ボランティアとして聞いて強く記憶に刻まれた、そして2週間の活動期間にインターンとして私が何度も説明をした内容です。でも、ボランティアの時は聞き逃してしまっていたのか、あるいは私が1年の間にいろいろと学んだことで意識が変わったのか、今回の活動を通じて初めて知った話がありました。

それがお金の話です。日本の最低賃金は都道府県によって異なりますが、令和元年度地域別最低賃金改訂状況を参照すると、最低賃金時間額、すなわち時給の最低金額は東京都で1,013円、最も低い県でも790円とされており(1)、これを労働者の年間総実労働時間(2)とかけ合わせて月額に変換すると168,665円ないし131,535円となります。一方でカンボジアの最低賃金を見てみると、2020年1月1日から適用された金額が月額190USドルとなっており(3)、いまのレート(4)で計算するとおよそ19,950円。しかもこの金額はプノンペンの縫製工場の最低賃金で、田舎の方に行けばもっと低額だそうです。もちろん平均物価が違うので単純に比較することはできませんが、それでも日本とはずいぶん違う環境であることが分かるかと思います。

では、こんなカンボジアで救急車を呼ぶといくらかかるのでしょう。スタッフから聞いたところによると、1回救急車を呼ぶだけで20ドルだそうです。月給の1割を1回の救急車に支払わなければならないとなったら、あなたは救急車を呼びますか?

私の活動中にも、活動する病院からプノンペンの大病院へ救急車を使って患者さん(確か心筋梗塞だったと思います)を送る機会がありました。病院間の搬送だったこともあり、こちらの病院の医師と看護師が同乗して行きました。その医師は私とほぼ同時期にカンボジア入りした日本人の先生で、先生の活動期間は2ヶ月だったため、2週間ほどで私が帰国した後も、日本にいる私に現地の様子を教えてくださいました。その時にこんな話を伺いました。

「診療を終えて宿舎に戻ろうとしたところで、日中入院してきた心不全の患者さんをちょっと見てほしいと言われ、確認しに行ったらすでにショック状態。結局10分足らずでCPA(心肺停止)になってお亡くなりになられてしまった。患者さんは入院した時点で『お金がないからプノンペンには行かない』と言い続けていたが、やっぱり命はお金なんだろうか…と思った。」
※ジャパンハートの病院は、入院・治療・検査等にかかる費用の患者負担が一切ありません。カンボジアには皆保険制度がなく、先述の通り医療が手の届きにくいものであるため、経済的に余力がなく、医療を受けられない方がジャパンハートの病院を受診されるケースが多いです。

蘇生の現場はなかなか厳しく、たとえCPAから回復したところで、(自分たちの病院では対応しきれないため)広域搬送にしてもその間に亡くなる可能性が極めて高い。しかし、日中入院してきた時点で救急車で搬送できていれば、そしてプノンペンの病院で治療してもらえるだけのお金があれば、助かっていたかもしれない命。あなたはどう思いますか?

さらに思考を広げてみます。日本では救急車を呼んでも無料です。しかし、緊急度の低い状況であるにも関わらず、まるでタクシーかのように救急車を呼ぶ人がいることが問題となり、救急車の有料化に対する議論が長年行われてきていることはご存知の方が多いでしょう。有料化による不必要な救急車の利用が抑制されるとする意見がある一方で、経済的余裕のない方の場合特に、本当に重症であるにも関わらず救急車の利用をためらい、結果的に救えたかもしれない命が失われる可能性を指摘する反対意見も根強くあります。あなたは、賛成と反対、どちらですか?理由はなぜですか?その根拠となるエビデンスはありますか?

検査をすること、されること

カンボジアの最低賃金の話から、日本の救急車の有料化に対する意見にまで考えが広がりました。また少し違う観点から医療を眺めてみましょう。

救急車と並んで、私の中で特に印象深かったのが検査にまつわる話でした。

日本では病院に行くと、医師は比較的簡単に血液検査をしたり、CTを撮影したりするのではないでしょうか。しかし、私の活動していた病院では、レントゲンの機械しかなく、CT・MRIを撮影する必要があると判断されると、患者さんにプノンペンの病院まで行って撮ってきてもらうしかありません。医師たちは、エコーとレントゲン、限られた血液検査のデータだけを用いて、問診と身体所見を中心に診断をつけていくことになります。

血液検査の話をさらに見ていきます。ジャパンハートの病院では、検査費用は無料で済むものの、非常に限られた項目しか見ることができません。そこで、もう少し項目を増やした検査が必要だと判断されると、隣の敷地に建っている連携先の公立病院に行ってもらい、そちらで追加項目の検査をしてもらいます。しかし、検査は1項目追加するごとに料金が発生します。救急車の例でも述べた通り、ジャパンハートの病院に来院する患者さんは金銭的に厳しい生活をされている方が少なくありません。そうした患者さんに追加料金を払ってもらわないといけないとなると、検査をする意味が日本とは全く異なってきます。患者さんに納得してお金を支払って検査を受けてもらうためには、しっかりとした説明が必須です。

日本の検査機器は諸外国に比べて極めて多いというデータがあります。OECD加盟国におけるCT・MRIの保有台数を人口100万人あたりで見ると、2位のアメリカを引き離し、日本の保有台数は圧倒的に1位なのです(5)。検査機器が充実していることは、高水準の医療を国民が受けられていることを示唆するという意味でよいことであると言えます。しかし、それゆえに過剰医療が問題となり、先進国の間では過剰医療を抑制しようという運動すらあるのです。

これに対して私がカンボジアで見たのは、少ない医療資源による限界と、それゆえの医療者―患者間コミュニケーションのあり方でした。先の血液検査の例で言えば、ホルモンに関する項目はプノンペンの大きな病院ですらできないため、カンボジア国内ではホルモンの検査をすることはできません。本当に検査が必要な場面で、こうした資源による制約がかかることは、患者さんにとってよいこととは言えません。しかし、これだけ医療資源が限られてしまうからこそ、医療者は徹底的に問診と身体所見を取り、検査の中でも比較的簡単に行えるエコー検査を行って診断をつけます。そして、金銭面で患者さんの生活に大きく影響を及ぼしうる以上、医療者は検査が本当に必要なのかをギリギリまで見極め、どうしても検査するとなった場合には患者さんに納得してもらうために徹底的に検査の意味を説明します。

日本のNGOの病院なので、日本人医療スタッフも全体の半分ほどを占めるのですが、英語の通じない現地の患者さんに向けて、通訳を介して問診や説明を丁寧にしていく医療者の姿が非常に印象に残りました。もちろん私は学生実習で病院に出たことすらまだないので、必ずしも日本の医療現場のことをきちんと理解しているとは言えません。しかしそれでも、医療者と患者さんが話し合っているカンボジアの様子を見ながら、日本では、リソースが豊富なあまり、検査に頼り過ぎた医療になってしまってはいないか、患者さんとしっかり向き合う時間を取れているのか、という課題を改めて突きつけられました。

私にとっての海外に行くことの意味

海外の医療を覗くことで、医療を通じて「生命」というものに様々な面から向き合うことになります。そしてその切り口で、その国の医療とそれを取り巻く環境を見つめるとともに、日本の場合はどうだろうと考え、さらに関連する問題へと思考を広げることが可能になります。こうした思考から生まれてくる問題意識が、もしかしたら将来を大きく変える解決策の糸口になるかもしれないと私は信じています。

2回同じ場所を訪れた私が感じたのは、「自分の学びの幅・深さによって、同じ物事に対する視点、そして何かを思考する上での材料がかなり違ったものになってくる」という事実でした。ごくごく当たり前なことではないかと思われる方も多いでしょうが、この当たり前が、病院という「生命」に大きく関与する場で感じられたからこそ、帰国後の私の活動に影響を与えているなと、このコラムを書きながら改めて感じています。これからも、自分の医学生としての際をわきまえ、そして時に際を超えていくような活動をしていきたいと思います。

参考文献

  1. 厚生労働省. (2020) 『令和元年度地域別最低賃金改定状況』https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/ (2020年7月28日最終閲覧)
  2. 一般社団法人日本経済団体連合会. (2019) 『2019年労働時間等実態調査集計結果』https://www.keidanren.or.jp/policy/2019/076.pdf
  3. 独立行政法人労働政策研究・研修機構. (2019) 『2020年の最低賃金引上げ額の決定―月額190USドルへ4.4%の引上げ』https://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2019/12/cambodia_01.html (2020年7月28日最終閲覧)
  4. ロイター. (2020) 『外国為替: 米 ドル / 日本 円』https://betajp.reuters.com/investing/currencies/quote?destAmt=&srcAmt=1&srcCurr=USD&destCurr=JPY (2020年7月28日最終閲覧)
  5. OECD.Stat. (2020) “Health Care Utilisation : Diagnostic exams” https://stats.oecd.org/index.aspx?DataSetCode=HEALTH_STAT# (2020年7月31日最終閲覧)

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