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台湾留学でみつけたもうひとつの医学体系 -ひとけんコラムNo.2-

  • 著者: 秤谷 有紗(人と医療の研究室)
  • 投稿日:
  • 国名: /
  • 派遣先機関:台北医科大学
  • 留学目的:臨床留学

台湾留学でみつけたもうひとつの医学体系

 

初めまして。人と医療の研究室(ひとけん)で研究員をしております、秤谷有紗と申します。初期研修修了後は外科医として診療に日々励む傍ら、暇をみつけてはひとけんでの議論に参加して多才なメンバーから刺激をもらっています。

 

連載初回の池尻(https://inoshiru.com/column/014/)からバトンを受け取った第2回の本コラム記事では、医学部6年生で台湾へ留学した経験を交えながら医学の枠組みについて一緒に考えていければと思います。

 

さて、読者の皆様は東洋医学や中医学といった医学についてご存知でしょうか。

用語の解釈については諸説あるので割愛しますが、東洋医学は東洋、特に中国の伝統的医学(『広辞苑 第7版』)とされ、アジア圏で認知されている民間療法の総称、中医学は中国の各地で誕生した医学を編纂したものと言われています。そして日本ではその中の漢方医学の一部で薬事承認されている漢方薬を伝統医学ないしは民族療法とカテゴライズして近代西洋医学を補完・一部代替するものとして位置付けていますが(注1)、お近くの台湾や中国では、西洋医学と並ぶ医学として医師国家資格まで設けられているような代物でもあります。

 

例えば台湾では、西洋医学と中医学の医師免許は独立しており、どちらもその専門の大学、医学教育が存在しています。西洋医学の医師免許を取得するには西洋医学を学ぶことができる大学を、中医学の免許には中医学を学ぶことができる大学で教育を受け、別個の国家試験を合格する必要があります。日本のように西洋医学の医師免許1枚では漢方薬を処方することができないのです。2つの医学は別個のものとして認識されているため、それこそ受診受付から完全に切り離されています。そして、患者が病院を受診する際に、今日はどちらで治療を受けようかといった具合に自由に科を選択することができます。どちらの科が自身の治療に相応しいのか、どちらを受診すべきか、といった判断は、私がみた限りでは医師ではなく患者の判断に委ねられているようでした。実際に留学中に待合室にいた患者さんに伺った話では、どちらの医学で治療してもらった方が治りやすいかがこれまでの治療経験である程度分かっていて、自分の体の治りやすさで受診を決める、といった方もいれば、どちらでも治るから単に好みで決める、といった方もいらっしゃいました。また、最近体が冷えやすいとか風邪を引きやすい場合は中医学、身体のどこかを打って痛いだとか、薬を飲んで症状を和らげたい場合は西洋医学、といった方もいらっしゃいました。そして、一方の治療では完治しなかったからもう一方の治療を受けにきた、という方もいらっしゃいました。日本に住む私達にとっては西洋医学か中医学かを選べるだなんて驚きですよね。医療の幅を広げるにはこういう選択肢の増やし方もあるのかと衝撃を受けたことをはっきりと覚えています。

 

ところでもう1つよく覚えているのが、留学中に出逢った台湾のご飯の美味しさです。赤道により近い国の賑な夜市に漂うあの独特の雰囲気の中で飲むタピオカミルクティーは、日本の暑さの中で飲むものとはまた違った味わいがあるものです。あちらこちらの街角に潜む小籠包屋さんにもいつのまにか吸い込まれていってしまったものでしたし、ロープウェーが結ぶ山の頂上で、台北の煌びやかな夜景を眺めながら飲む鉄観音茶もまた格別でした。

 

 

 

 

 

脇道にそれた話を少し医療に戻しますと、私は医学部在籍中に「関西中医学研究会 ひょうたん」(以下ひょうたん)という学生団体を立ち上げ、運営をしていました。ひょうたんは関西圏を中心とした医学部生、看護学部生や薬学部生をはじめとする将来医療分野に携わる学生を中心に構成され、西洋医学とともに中医学を学ぶための場です(現代表:京都大学医学部医学科6年生 山下真弥)。そのひょうたんでの勉強を通じて、学生が西洋医学と別の医学を学ぶ意義を感じたので共有させて下さい。台湾を初めとした諸外国とは異なり、西洋医学が中心の日本の医療制度の下で将来働く学生が、あえて実習やら試験やら部活やらと何かにつけ忙しい学生時代から別の医学体系にふれることで、西洋医学の勉強が疎かになるのではないかという懸念を感じられた方もいらっしゃるかもしれませんが、それ以上に、同じヒトを少なくとも2つの角度から分析する手段をもつ、もとうとすることで、1つの情報への解釈を複数もてる可能性を得ることができます。1つ勉強した内容につけられるタグが倍以上になります。逆に、得た情報をしまう思考の中の棚が増えます。情報を引き出しやすく、整理しやすい。まだまだ未熟で勉強途上ではありますが、一方の医学では関係性のなかった複数の知識や経験を片方の観点で包括的に考えることができるのは面白いところです。そして、全く別の医学体系の存在を知ることで、世の中にはまだまだ知らないことに溢れているという無知の知を意識させられたことを挙げたいと思います。

このように書くとひどく真面目な団体に思われてしまうかもしれませんが、実際はみんなで花粉症対策の漢方薬を勉強して薬膳鍋やカレーを作ったり、老人ホームにお邪魔してボランティアでマッサージをしてみたりと、全国に沢山ある東洋医学系の部活さながら、座学以外にも遊び要素の強い様々な活動もしていました。台湾へ留学した動機も、中医学が実際に臨床の場で西洋医学と並んで使われている現場を経験したかったからでした。

 

医学生が「際を超える」ことを応援するINOSHIRUをご覧になっている読者の皆様に、医学そのものの枠組みについて一度考えてみられることをお勧めします。西洋医学とはどういった学問なのか。世界ではどのような位置付けにあり、どのような歴史背景があるのか。そして、洋の東西に隔たりなく、医学体系ならびに医療そのものに対する批判的思考力を培うためにも、このひとけんコラムを初めとしたINOSHIRUさんのサイト等も利用して多くの体験や意見を知って頂ければと思います。

本記事もその一助になれば、これほど嬉しいことはありません。

 

注1:厚生労働省「統合医療」情報発信サイト https://www.ejim.ncgg.go.jp/pdf/manual_2016.pdf

 

お知らせ

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