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ハンガリーの留学生

  • 著者: 野坂 未公音(島根大学医学部4年)
  • 投稿日:
  • 国名:
  • 派遣先機関:IFMSA
  • 留学目的:留学生受け入れ

ハンガリーからの留学生、Annaを海に連れていくと、彼女は一生懸命貝殻を拾っていました。その色とりどりの貝殻を大事に洗い、干して、箱に入れて国に持って帰り家族に見せるのだそう。そういえばハンガリーには海がありませんでした。彼女にとって貝殻は、私たちでは気づけない「日本らしさ」なんでしょう。貝殻なんて今さら拾うものでもないだろうと思っていましたが、急に彼女の手のひらの中の巻き巻きの形や淡い藤色の貝殻が愛しくなり、私も夢中で探し始めました。

こんにちは。私は島根大学医学科4年の野坂未公音と申します。
私は学生団体「IFMSA-Japan」に所属し、島根大学で留学生の受け入れを行っています。私はよく留学生と一緒に行動していることや、留学に行くことが多いため、大学の友達からは「海外で働く気ではないか」と噂されているそうですが、日本で地域医療を行うつもりです。ただ、日本の医療の現状が最高だと思っているわけではなく、他国によりよいシステムがあれば改善案になるのではないかと考え、日々留学生から各国の情報収集を行っています。
さて、私は、この大学生活4年間、留学に「行く」のはもちろん好きですが、留学生を「迎える」ことに熱を上げています。
いつもは大学の裏にある留学生用の寮に留学生に滞在してもらいますが、7月はたまたま寮に空きが無く、私のアパートにハンガリーからの留学生を迎えることになりました。彼女は普段は5年生と共にポリクリを周っており、夕方に終業すると帰ってきます。食生活はまったく反対であるため別々に取り、朝早く実習がある彼女と、夜遅くまでテスト勉強をする私と:は生活リズムも違うため部屋も別にしていました。
家に留学生がいることに対して、「大変だねえ」と言われることが多々ありました。もちろん普段一人で過ごしている家に他人がいることは窮屈に感じることもあります。しかし、それ以上に彼女と過ごした一か月は新鮮で、より日本のことを知ることができました。

◎スーパー
普段は各々最寄りのスーパーで食料を調達していましたが、時折彼女がスーパーで見つけられないものがあった時、大型ショッピングセンターに車で足を延ばしました。今日のお題は「パプリカパウダー」と「サワークリーム」。パプリカパウダーなんてあるのか?と思ったのですが、スパイスのコーナーにあっさり置いてありました。赤いけれど甘くて、スープやらシチューやら何でもこのパウダーを入れるのだそうです。彼女のスープを味見すると、いつもこのパウダーの味がして、スープの違いを説明されても味の違いはわかりませんでした。しかし、サワークリームが見つからない。大きなヨーグルトのパックを指さして「ハンガリーではこんな感じでスーパーに置いてある」と言われるのですが、ラベルははっきりと「ブルガリ〇ヨーグルト」と書いてあります(以前この国の留学生は大変喜び毎日食べていました)。泣く泣く生クリームにクリームチーズを混ぜていましたが、どんな味だったのでしょうか…。ついでにじゃがいもを買っていましたが、小さなビニール袋に詰め放題かというほど詰めてレジに持っていくと、店員さんに「何個ですか?」と聞かれ、「グラム計算じゃないの?」と驚いていました。

◎日本の風景
彼女は、メトロポリタンな日本に惹かれてやってくる多くの留学生を見てきた私にとっては珍しく「海山川のある自然が多い土地」をあえて選んで来た留学生でした。夕日が見たいと頼まれ彼女と河川敷に散歩に行くと、「見て!こんなに山がある!」と言われ周りを見渡すと、山、山、山。左も前も後ろもなんてことないただの山。そうか、この風景普通じゃないのか…。そういえば、私が韓国に留学した際も、韓国の友人に「日本は山がたくさんあっていいよね」と言われました。もしかすると地方の大学に進学した学生にとって、山に囲まれることは「田舎に来てしまった…」と悲観するものかもしれませんが、少なくとも目の前に一人、目を輝かせてこの情景を写真に収める人間がいます。ただの路地裏も、コンビニの看板も、彼女にとっては何もかも新しく、特別なのだと思うと、私にもこの風景が新鮮に映るから不思議なものです。

◎教育制度
ハンガリーには4つの医大があり、彼女の大学は一学年に200人のハンガリー枠、100人のインターナショナル枠があるそうです。ここには日本人もたまに入学してくるそうです。彼女も元々スコットランドのインターナショナル枠を考えていたそうで、国間の移動にはあまり抵抗がないようです。日本のポリクリは班の中で1人か2人しか話せないけど医者になれるのか?と聞かれ驚きましたが、よくよく聞くと、彼女の大学では、医学の授業はハンガリー語でするが非常に厳しい英語の試験が卒業前にあり、それに落第すると留学できるはずの夏休みを丸々棒に振って英語を勉強しなくてはいけなくなるほど英語の成績には厳しいとのことでした。彼女もたまに英語で電話しており、日常的に英語を使っていることが窺えます。ハンガリーの医学部は、授業料が無料だそうですが、留年すると授業料を払う必要が出てきます。進級は日本と同様、大変な努力が要るそうですが、授業料が法外で払えないため、医学生は必死だとか。
「法外って…いくらぐらいなの?」「日本円に換算するとこのぐらいかな」「あ、半年で32万ね…へえ…そうなんだ…」
しかしよく聞くと、なんとハンガリーの初期研修医の初任給は15万程度。日本に来た当初から、「交通費が高い」「りんごが高い」「ランチの値段が法外」と言っていましたが、謎が解けました。ハンガリーから医師が国外へ流出する現象は歯止めがきかず、国内は深刻な医師不足が社会問題となっているようです。

◎医療の違い
彼女の研修先として、島根大学の消化器・総合外科の医局に受け入れていただきました。毎日帰ってきて私に話していたのは、「どうして日本のポリクリ生はオペ中に歯を食いしばって立ち続けているの?」ということでした。彼女はオペ中しんどくなったらしゃがんでいたそうですが、それについて先生方から言及されることは無かったため日本人の班員にも勧めても、皆頑なに断っていたことが不思議で仕方なかったようです。しかし私がポリクリ生の立場で考えるときっと断っていました。この身に日本の文化が染みついていることを実感せざるを得ない瞬間でした。ちなみにポルトガルに留学した先輩もオペ中に「何立ってるんだ?椅子があるんだから座りなさい」と言われたことがあるという話も聞いたことがあります。この問題がこのままでいいのか改善すべきかはまだ4年の私には分かりませんが、ある人間から見るととんでもなく不思議な日本の文化であると感じました。
また、病院に入院している高齢の方が痩せ型であることに彼女はとても驚いていました。ハンガリーで高齢の患者さんの最も深刻な問題は肥満であり、日本はガンとの戦いが1番のトピックですが、ハンガリーでは糖尿病の管理だそうです。普段全く意識したことはありませんでしたが、きっと私が将来病院にかかる時のことを想像すると肥満である自分の姿は想像できませんでした。

彼女が毎日楽しく話してくれる日本での気づきは、ハンガリーの文化を知れるだけではなく、私たちがごく当たり前だと思っていることがとても素敵なことであったり、はたまた問題として取り上げることができるものであったりと、日本文化の新たな側面を知ることができます。留学生の感動は、毎回私の感動にもなります。
しかし私が「日本に来てくれた留学生との交流」の中で最も魅力を感じていることは、留学生は、いくら背が高くてもいくら英語が話せても、私たちと同じ「人間」であるということです。日本では英語を話す機会が無いため、流暢に英語を話せる留学生がいると、非常に目立ち、さらには聖人かのように感じてしまいます。けれどもその壁を打ち壊し話してみると、意外と私たちと同じ普通の青年です。ハンガリーの留学生も、手作りメロンクリームソーダとマスキングテープを愛する24歳の女の子でした。以前来たイラクの男性も背が非常に高く髭があって慄いてしまいましたが、銀魂を愛しすぎて日本に来たため、はしゃいでイラクに持って帰れるはずも無い木刀を買って一緒に自撮りしていて、親近感が湧きました。
忙しくて1ヶ月なんて留学期間が取れない…。そんな時は大学に来た留学生のおもてなしはいかがでしょうか?相手の国ことを知れる上、自分の国のことをもっともっと好きになれる、こんな「擬似留学」を楽しんでみませんか?

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