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将来の選択肢が増えた研究留学 in London

  • 著者:吉田恭子 (東京医科歯科大学医学部 5年生)
  • 投稿日:
  • 国名: /
  • 派遣先機関:Imperial College London
  • 留学目的:基礎研究

一問一答コーナー

名前:吉田 恭子(Kyoko Yoshida)
所属大学・学年:東京医科歯科大学 5年
留学先の国:イギリス
留学先の大学(機関):Imperial College London
留学の期間:4年生 6月~11月
留学の目的:研究
留学の費用(概算):約150万円
-学費:0 (協定校への交換留学であったため)
-家賃:約75万円 (約15万円×5か月)
-生活費:約40万円 (約8万円×5か月)
-渡航準備(保険、航空券、Apartmentのdepositなど):22万円 (航空券代約11万円、保険約10万円)
プログラム(仲介してくれた機関/人):所属大学の協定校
利用した奨学金:トビタテ!留学JAPAN
VISA:Short term student visa
保険:OSSMA会員専用海外留学保険(プランB)
留学中の住まい:大学の学生寮 (Beit Hall)

プロフィール

東京医科歯科大学医学科5年。

中学時代にニュースで見たシリア内戦の衝撃的な様子が、海外へと興味を持ったきっかけでした。同時期に、かのMichael Jacksonの”We’re the world”の歌詞の一節”we can’t go on pretending day-by-day That someone, somewhere soon make a change”に触発され、自分自身も何か世界に対してアクションを起こせるような人間になりたいと考えるようになりました。自分にできること、自分がしたいことを悶々と考えた結果、途上国の医療水準向上、なかでも感染症対策に携わりたいと思い、医師を志しました。

サマリー

・留学で広がる将来の選択肢

・丁寧に「伝える」ことで広がる可能性は∞

・自分の努力で「変えられること」と「変えられないこと」の線引きを

Q1. 留学中にカリキュラムで学んだことについて

留学中は、B型肝炎の疫学関連の2つのテーマ(途上国でも使用できる安価な検査ツールの開発・途上国用の検査ツールの先進国への臨床応用)について研究を行いました。研究テーマそのものに関わる知識や技術が身に付いたのはもちろん、途上国を対象とした研究を活性化する上での工夫や、国境を越えた研究を進める上でのポイントといった研究へのアプローチについても学ぶことができました。また研究中はImperial College Londonの研究者だけでなく、他国の研究者や教授ともメールを通して交渉や議論を重ねたことで、丁寧な姿勢を保ちつつ自分の要求を明確に示す方法も身に付けることができました。
さらに研究室の指導教官に頼み込んだ結果、病院の外来見学もさせていただくことができました。様々な文化的背景をもつ人々が集まる中での医師-患者関係構築の難しさ、移民と医療の関係、イギリスの医療制度の明暗、についても垣間見ることができました。
留学中に学んだことを挙げれば枚挙に暇がありませんが、何よりも、将来像について臨床/医療政策のたった2面から考えていた私にとって、この研究留学を通して「研究者」という選択肢が増えたことが、一番の大きな収穫でした。

<通っていた研究室のあるSt Mary’s Hospital>

Q2. カリキュラム以外の、留学先ならではの現地での生活について

ロンドンは公園が多く、研究室と寮を行き来する際にはハイドパークというロンドン最大の公園を通っていました。大都市にあるとは信じられないくらい緑豊かで、毎朝リスと鳥に囲まれながら気持ちよく通学していました。

<ハイドパーク>

10月の新学期からは寮のイベントや部活動も始まり、少しだけ現地の学生気分を味わうことができました。特にImperial College Londonでは学術系の部活動も充実しており、毎回著名なゲストを呼んで開かれる「神経内科部」のレクチャーなど勉強になるものも多かったです。

Q3. なぜその場所(国・大学)、その期間を選んだか

-場所について
所属大学の協定校の1つにImperial College Londonがあり、研究室配属期間の希望先として選択できたことが、この留学先を選んだ最も大きな理由です。
それに加え、Imperial College Londonは世界大学ランキングでも上位に位置する大学であり世界トップレベルの医師や研究者と意見交換する機会が得られること、またヨーロッパは大航海時代から熱帯へ繰り出していたことから伝統的に感染症研究が盛んであることも選んだきっかけです。

-期間について
約5か月間(カリキュラムで指定されていました)

Q4. 留学に至るまでの準備について

研究室でお世話になる予定だった指導教官が執筆された論文を一通り事前に読んでから渡航しました。
また、一人暮らしの経験がなかったため、渡航前は必死になって料理の練習をしていました。

Q5. 準備、留学中の両方について、「こうしておけばよかった」と思う反省点と、自分なりに工夫してよかった点

工夫して良かった点
・自分の希望をとにかく口に出すよう心掛けていたことです。自分の興味から外来見学の希望までとりあえず口に出してみたら、思いがけず自分の興味に合うプロジェクトに参加させていただいたり、外来見学のOKをいただけたりと、色々なチャンスが降ってきました。

反省点
・渡航前に携帯の契約を一時休止しておけば良かったです。SIMを現地で購入したため半年間二重契約する形となり、契約料金が余計な出費となってしまいました。
・クレジットカード等の貴重品はまとめて持たずに分散して持っておけば良かったです。帰国1週間前にお財布をすられ、持っていたカードをすべて失いました。

Q6. 留学していた場所について

ロンドンは芸術が盛んで、ほとんどの美術館は無料、一流オーケストラやバレエも立ち見なら1000円台で鑑賞することができました。またスポーツも熱い都市で、サッカーのヨーロピアンリーグやテニスのウィンブルドン(運良く錦織選手の試合を観られました)観戦なども休日には楽しみました。

<寮の隣にあったRoyal Albert Hall>

またヨーロッパという多くの国々が密集している土地柄、アイルランドやフランスなど近隣の国にも出かけやすい環境でした。同じヨーロッパと言えども多様な文化が根付いている他の国々を見て回れたことで、文化とは何か、改めて深く考える良いきっかけとなりました。

またイギリスでの生活を通して、改めて日本の良さにも気づくことができました。特に水道事情には苦しめられることが多く、断水、なかなか流れないトイレ、お湯の出ないシャワーと闘う日々でした。一方で厳しい水道事情の中で、いかに相手を尊重しつつ自分の問題と要求をいかに伝えるか、いかにうまく折り合いを付けるか、といった交渉術は大幅に培われました。

Q7. 留学中どのような人とかかわったか

直属の指導教官をはじめ、世界各地の共同研究者ともメールでやり取りをしました。
同じ研究室のほとんどのスタッフは全く異なる研究分野であったため研究自体で関わる機会は少なめでしたが、お菓子を分けていただいたり、休日のおすすめの観光先を教えていただいたりと、何かと気にかけていただきました。

<研究室のスタッフに誕生日をお祝いしていただきました>

同年代の友人は渡航時期の関係であまり多くはできませんでしたが、仲良くなった学生とは寮で団子&折り紙パーティーを開催して招待したり、一緒に楽器の演奏を楽しんだりしました。

<寮で開催した折り紙&団子祭り>

Q8. 英語の能力はどう変化したか

研究柄、目上の人とのメールのやり取りが非常に多かったため、Writingはかなり上達しました。またSpeakingに関しても、ボキャブラリーの幅が広がった、とっさの一言がパッと出るようになった、という意味では上達したと思います。一方で、話す際に質より量!と思っていた分、文法や発音に関してはあまり上達はしなかったように感じます。
Listeningに関しては、様々な訛りへの対応力は身につきましたが、スピードの速い雑談などでは内容についていけないこともしばしばありました。

Q9. 留学のメリット/デメリットについて

-得たもの
・将来の選択肢
留学以前は将来について臨床/ 医療政策の2面から考えていました。しかし、今回の留学で5か月間、自分の興味に完全ストライクな内容の研究にどっぷりと浸かれたこと、また多くの研究者と関わり貴重なチャンスを多く掴めたことで、「研究」という選択肢が新たに増えました。また、日本とは異なる医師の働き方や育児との両立方法を見たことで、将来悩むであろう仕事と家庭のバランスについても多くのヒントを得ることができました。
もちろん、留学によって将来が「決まった」訳ではありませんが、以前よりも多くの選択肢を得たことで、より自分に合うキャリアを選ぶ手助けになるのではと考えています。
・人とのつながり
留学中にお世話になった指導教官や共同研究者の方々とは帰国後も連絡を取り合っており、リモートでも参加可能な研究プロジェクトや、アフリカの研究施設でのインターンなどに誘っていただきました。日本にこもっていたら出会えなかった方々と出会い、論文のPublishをはじめとする将来につながるような経験を留学中のみならず帰国後の現在もし続けられるのは非常に大きな収穫でした。
・交渉力
研究中も交渉、外来見学をしたければ交渉、寮のシャワーを修理してほしければ交渉。至るところで交渉の機会があり、相手への敬意をきちんと示しつつも自分の要求を的確に伝える力が身に付きました。それと同時に、「言わなければ何も変わらない」「一言伝えるだけで状況が大幅に変わりうる」ことを痛感した5か月間でした。

-失ったもの
・お財布
帰国1週間前に地下鉄内ですられました。パリやローマなど他のヨーロッパの大都市に比べるとロンドンは比較的治安の良い印象でしたが、油断大敵とはまさにこのことです。

-得られなかったもの
・英語力
上達ゼロではありませんが、ListeningとSpeakingに関してもっと上達できたらと思いました。
・同世代の友人
渡航時期がちょうど現地の夏季休暇と被っていたため部活はほぼ全て休止中、寮も空っぽでした。渡航1か月前に新学期が始まりましたが研究の最後の追い込みの時期とも重なっており、残念ながら同年代の友人は期待していたほど多くはできませんでした。

<夏季休暇中は寮がホテル営業していました>

Q10. 現地で苦労した話について

・期待と現実のジレンマ
初めての留学だったこともあり、絶対に無駄な留学にはしたくない、あれもこれも挑戦してたくさん成長したいと「やりたい」こと尽くしで渡航しました。しかし「やりたい」ことが全て「できる」とは限らず、このジレンマに苦労しました。
特に、研究室のスタッフと研究内容が全く異なったために生活リズムが合わず、当初期待していたほど話す機会が得られなかったことが一番苦しかったです。生き生きと多くの人と交流する留学仲間の姿をSNSで見るたびに、満足にそれができていない自分は留学を無駄にしているのではないかと悩む日々でした。無理に昼食の時間をずらしてタイミングを合わせるなど色々試すも研究とのバランスが上手く取れず行き詰まったとき、同じ大学からの派遣生に言われた言葉が転機となりました。「ここへは研究をしに来たんだ」の一言にハッとし、やりたいこと・できること・やるべきことの線引きを自分の中でつけられてからは、かなりジレンマは解消しました。
留学中はつい気負いがちになりますが、留学した途端にスーパーマンになれる訳ではありませんし、個人の努力では変えられないことも少なくありません。やりたいことを多く掲げることももちろん重要ですが、行き詰まった時に「自分の努力で変えられること」と「自分ではどうにもならないこと」の線引きができることも、留学では大事な力だと思います。

・お湯なし、修理なし

ロンドンが冷え込み始める9月上旬、寮の自室のシャワーから冷水しか出なくなってしまいました。寮のWardenに交渉しても、新学期前の繁忙期であるためリペアマンはなかなか手配できず、挙句の果てに修理不可と言われてしまいました。とはいえ冷水シャワーは困るので、毎朝研究室に向かう前にオフィスに立ち寄り交渉を重ねた結果、なんとかお湯の出る部屋への引っ越し許可を得ることに成功しました。冷水シャワーはつらい経験ではありましたが、「修理が駄目なら引っ越し」などアプローチを変えてみること、相手の立場に理解を示しつつ粘り強く議論することなど、この経験で学んだことは多かったです。

・警察を求めて三千里

帰国1週間前に地下鉄内でスリ被害に遭いました。翌日の日曜日、被害届を出すべく警察署へ向かったのですが、交番や警察署が365日開いているのは日本だけの話。最寄りの警察署はなんと土日休みで、開いている警察署を探してロンドン市内を歩きまわる羽目となりました。

Q11. 留学について意識し始めた時期とそのきっかけ

途上国の医療水準向上に貢献したいという思いで医学部を志した時から、留学には興味がありました。特に大学入学後の講義を通して自分の視野の狭さを痛感すると同時に、長期の海外経験ゼロのまま日本に留まり続けているようでは視野を十分に広げることは難しいと感じ、留学をより強く望むようになりました。

Q12. 留学後の展望について

留学以前は臨床/医療政策という狭い範囲で将来について考えていましたが、この留学を通して研究者という選択肢も考えるようになりました。
最終的に研究の道に進むとしても専門医の資格までは取得したいと考えているため、ひとまずは実習と研修を頑張りたいと考えていますが、今回の留学でお世話になった研究者の方々とは繋がりは今後も保ち続けるつもりです。帰国後に始めたプロジェクトなどもあるので、実習と両立しつつそれらを形にするのが当面の目標です。

Q13. 最後に一言(後輩へのメッセージなど)

百人百様の経験をして帰ってくる留学には「これさえ出来れば苦労しない」「必ずこの力が身に付く」といった明確な答えがない分、いざ踏み切るにはかなり勇気が要るものです。しかし留学先では必ず、自分の想像を超えるような経験が待っています。そのような経験に出会ったとき、一回りも二回りも成長できることは間違いありません。決まった答えがないからこそ、自分自身にしかできない経験をし成長できる留学、ぜひ勇気を出して挑戦していただけたらと思います。

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