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ラテンアメリカ チリで小児感染症に関する基礎研究と異文化交流の5ヶ月間

  • 著者:鈴木 圭人(東京医科歯科大学医学部 5年生)
  • 投稿日:
  • 国名: /
  • 派遣先機関:チリ大学医学部
  • 留学目的:研究留学

一問一答コーナー

名前鈴木圭人(Keito Suzuki)
所属大学・学年東京医科歯科大学 医学科5年生
留学先の国チリ
留学先の大学(機関)チリ大学医学部
留学の期間2017年5月-11月(医学科4年生)
留学の目的ノロウイルス/ロタウイルスの小児観戦に関する基礎研究
留学の費用(概算)約100万円
-学費0(提携校のため)
-家賃7万円程度/月 5ヶ月半
-生活費35-40万程度
-渡航準備(保険、航空券、Apartmentのdepositなど)航空券 13万程度、その他含め計20万円程度
プログラム(仲介してくれた機関/人)大学の先生、チリ駐在の大学職員さん
利用した奨学金JASSO(6万*6ヶ月)
VISALas Condes地区のアパートメント
保険VISA REPUBLICA DE CHILE RESIDENTE ESTUDIANTE TITULAR
留学中の住まいOSSMA会員専用海外留学保険(プランB)

プロフィール

神奈川県出身 高校時代から発展途上国医療、グローバルヘルスに興味を持ち医学部入学。

東京医科歯科大学4年次のプロジェクトセメスター(自由選択の基礎研究期間)を利用し、チリ大学に中期留学。南米チリにおけるノロウイルス/ロタウイルスの小児感染に関する研究を行い、基礎研究の手法や研究者としてのマインドセット等を包括的に学ぶ。現在は5年生で臨床実習中。

興味のある分野:緩和医療、緩和医療に関するグローバルヘルス、精神医学、心因性疼痛、ペインコントロール、司法精神医学

近い将来、精神科的アプローチによる疼痛コントロールを学びたいと考えている。

サマリー

・一人の基礎研究者として居る環境

・南米の文化を知り、友人ができる

・自国の文化・制度・環境の相対化、”グローバル信仰”についての考察

Q1. 留学中にカリキュラムで学んだことについて

東京医科歯科大学と提携を組んでいるチリ大学医学部のMicrobiology研究室で5ヶ月半の基礎研究を行いました。2017年5月から11月までの5ヶ月半、4年次の「プロジェクトセメスター」という自由研究期間を利用しての中期留学でした。

 研究テーマは「チリ、コリーナ地区における分泌型/非分泌型の小児における症候性ノロウイルス/ロタウイルス感染について」でした。研究に協力してくれた100名程の小児の唾液のDNA分析、感染した小児の便を用いたウイルスの系統分析等を自分の手で行いました。4年次の段階でしたので、不十分な臨床知識を補うためにチリ到着直後から教授に渡された論文を読むことで、背景知識を身につけました。ラボではメディカルテクニシャンの方とPCR,ELISA法等の基本的手法を丁寧に教えていただきました。

Q2. カリキュラム以外の、留学先ならではの現地での生活について

 チリといえば陽気な性格の方が多いという印象がありますが、全くその通りであったと思います。もちろん一概には言えませんが、初めてでも暖かく笑顔で挨拶してくれる人が多いこと、無類のパーティ好きな気質は多くの人に共通している印象がありました。バス乗車時に運賃を払わないのは当然のこと、パーティの集合時間は2時間遅れても問題なし、という生活も初めは衝撃的でした。

 自分は放課後や週末は基本的にフリーだったので、現地でできた友達と音楽を作ったり、チリ大学のスタジオでバンドをやったり、友人宅のパーティに行ったりと、カリキュラム以外の生活も十分楽しむことができました。日本語を勉強している友達、コーラスグループの友達、特に自分が音楽をやっていたので音楽で知り合った友達などいろいろなコミュニティの人と仲良くなることができました。

Q3. なぜその場所(国・大学)、その期間を選んだか

-場所について

カリキュラムでいける国の中でスペイン語を公用語としている唯一の国であったため希望しました。高校時代と大学1年生でスペイン語を履修しており、スペイン語に対する抵抗が少なく、また自分の特徴的なスキルを伸ばす良い機会だとも考えられたので選びました。

-期間について

大学のプログラム上上記の5ヶ月半以外の選択はありませんでした。

Q4. 留学に至るまでの準備について

留学は大量の書類準備が主でした。VISAを取得する時にチリ大使館に提出する書類、その書類を作成するために取得しなければいけない書類…書類の山でした。基礎研究の予習として分子生物学の教科書、生化学の教科書を通読しようと試みたりもしましたが、必要書類準備に追われて十分にできなかった気がします。

余裕が大事です。

Q5. 準備、留学中の両方について、「こうしておけばよかった」と思う反省点と、自分なりに工夫してよかった点

準備中の反省はQ4に述べた通りです。とにかく、余裕を持って行動することです。チリの大使館の受付時間が平日の3時くらいまで(うろ覚え)だったので、VISAの提出の日は大学の講義を休んで行きました。公的書類の発行には長い時間がかかることをここで学びました。

また、到着して初週くらいに、チリののんびりとした雰囲気と仕事のスローペースさを知り、自ら積極的に動くことの重要性を感じたので、それ以降何かを待たずに自分から行動することを徹底しました。そのおかげで大学でも私生活でも充実した生活を送れたと思います。

Q6. 留学していた場所について

留学していたサンティアゴはチリの首都で、長らくスペインに支配されていた名残が色濃く残り、南米にありながらヨーロッパの一国のような雰囲気がある独特な場所でした。チリと聞くと治安が悪いという印象を持つ人が多いと思うのですが、サンティアゴはそこまで危険ではなく、「夜道に日本人が一人でふらふらしていると襲われる可能性が無くはない」程度で、欧米の国々と比べても比較的安全に感じられました。もちろん荷物は目を離さない、人気のない道はできるだけ避けるなど、ヨーロッパ旅行をする際の最低限の注意は必要です。

地下鉄、バスの便は非常によく、サンティアゴ市内ならほとんど公共交通機関で細かいところまで移動できました。街も綺麗で、美術館やおしゃれな洋服屋が立ち並ぶアート街などは非常に居心地が良く、何度も通っていました。観光客は少なく、人口も多すぎないため暮らしやすい街でした。

Q7. 留学中どのような人とかかわったか

大学の研究室は教授、医師2人、メディカルテクニシャン3人、教授秘書さん、看護師2人が基本のメンバーでした。教授と医師の先生方、秘書さんたちが英語を話せて、他の人とは皆スペイン語で会話しました。非常にフレンドリーで優しく、僕がスペイン語を理解できない時にはゆっくりと繰り返してくれました。ラボのメンバーとは今でもWhatsappで連絡をとったりしています。 

研究以外では、南米唯一の日本語専門学部があるサンティアゴ大学の友達とよく遊びました。友達の家に集まってだらだらお酒を飲み雑談をすることをスペインではfiesta(直訳すると祭り)と呼ぶのですが、チリではcarrete(直訳するとイベント)と呼び、週に一回は必ず誰かの家で開催されていました。皆日本語を勉強しているので、こちらが日本語を教えたり、逆にスペイン語を教えてもらったりと語学の勉強にもなる良いコミュニティでした。他にも、友達の友達というつながりから始まり、音楽をしている友達や好きな映画・ドラマが被った友達など実に様々なきっかけで知り合いが増えたことが印象的でした。その中の2人とは、休暇中に一緒にアルゼンチンでヒッチハイク旅行をしました。日本でもなかなか勇気がなくてできないヒッチハイクを、アルゼンチンでできたのは彼らのおかげです。一生ものの思い出ができました。

Q8. 英語の能力はどう変化したか

チリの公用語はスペイン語で、ほとんどの人が英語を話しませんでした。「グローバル社会、英語は話せて当然」という風潮すらも感じないほど英語が通じない場所が多く、振り返ってみれば、教授や先生と話す時か一部の友人と遊ぶ時しか英語を話す機会がなかったと思います。

一緒に行った同級生が英語に堪能だったので、現地の人よりも彼に学んだ発音や表現の方が多かった気もします。ただ、教授と研究について議論するとき、先生方を交えてプレゼンをするときは勿論英語を話していたので、留学に行く前よりは確実にスピーキングの能力は上がったと思います。その他、毎日Youtubeで医学に関する動画を見てリスニング力を鍛えたり、論文を読むことでリーディング力を上げる努力は続けていました。

Q9. 留学のメリット/デメリットについて

-得たもの

基礎研究の地道さと難しさ:僅かな知識と経験で臨んだ基礎研究は、想像をはるかに超える厳密さと忍耐を必要とするものでした。ラボでの作業は細かく地道で、結果が”綺麗に(=ノイズなく)”得られるだけでも難しいのに、それを膨大な量積み重ねて自分の構想を形にしていくことは非常に骨の折れることなのだと学びました。また、倫理審査委員会に自分の研究計画を提出する際にも、CVやIC(同意書)などの様々な書類を準備しなければならず、ラボ以外の苦労も多いということを知りました。この経験により、基礎研究をしている人の偉大さをより現実味を持って実感することができました。

-失ったもの

日本で過ごす半年の時間を失ったことになりましたが、それはデメリットだと感じません。

-得られなかったもの

 得られなかったものがないように日々努めていたので、あまり思い浮かびませんが、強いて言うならもっと英語を上達させたかったと思います。スペイン語に関しては毎日いろいろなシチュエーションで使っていたので、予想していたよりもかなり上手になったのですが、一方であまり使う機会のなかった英語は留学前に想像していたほど伸びませんでした。行く前はTOEFL90だったので、スピーキングとリスニングがやや伸びて94,5取れているかな…くらいの実感です(帰ってきてからは受けていませんが)。

Q10. 現地で苦労した話について

教授が非常に忙しい方で、研究計画の相談などをしたいときにあまりつかまらなかったこと、倫理審査委員会でスペイン語英語の2バージョンの研究計画を作成し口頭発表をしなければならなかったことが大変でした。あとはDNA分析キットの発注から到着までに空き時間が増えたりしたときも、研究が滞ってしまい苦労しました。

Q11. 留学について意識し始めた時期とそのきっかけ

4年次で半年間海外に行ける機会があることは入学前から知っていたので、ずっと意識していたと思います。高校時代にグローバルヘルスに興味を持ったことがきっかけで医学部を受けることにしたので、勿論大学選びの際にも留学の機会が充実している大学を選びました。

Q12. 留学後の展望について

感染症学の基礎研究で使った手技は幅広く応用が効くものが多いので、留学で得た研究の基礎を基に臨床・基礎問わず様々な次元の研究に関わっていきたいと考えています。現在、5年生で臨床実習を回っていますが、今度は研究ではなく実臨床の場で海外に行けたら良いなと考えています。次の留学では特に海外における緩和医療について重点的に勉強したいと考えています。

Q13. 留学へ行く前の自分へのメッセージ

予想している通り充実した期間になるので、何事にも迷いを捨てて全力で毎日を楽しんでください。

Q14. 後輩へのメッセージ

経済的に実現可能な状態でありながら留学をするかしないかで迷っている人がいたら是非行って欲しいと思います。行く理由も行かない理由も無数に存在するので、行った後に色々学べたなと感じて帰って来られれば留学は成功なのではないかと思います(特に学生のうちは)。

Q15. その他、言い残したことがあればどうぞ

特にありません!

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