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4週間タイで熱帯医学に触れ、見えてきた進路@マヒドン大学

  • 著者:室田 美晴(旭川医科大学医学部 5年生)
  • 投稿日:
  • 国名: /
  • 派遣先機関:マヒドン大学医学部
  • 留学目的:Tropical Medicine実習

一問一答コーナー

名前:室田 美晴(MIHARU MUROTA)
所属大学・学年:旭川医科大学 医学科5年
留学先の国:タイ王国
留学先の大学(機関):マヒドン大学医学部
留学の期間:2016年8月(医学科3年次)
留学の目的:熱帯医学実習(Tropical Medicine)
留学の費用(概算):約22万円
-学費:約5万円
-家賃:約5万円(約2000円×25日)
-生活費:約7万円
-渡航準備(保険、航空券、Apartmentのdepositなど):約5万円(航空券)
プログラム(仲介してくれた機関/人):Elective Program in Tropical Medicineという学内のプログラム(学内の先生が仲介)
利用した奨学金:なし

VISA:なし(不要であった)
保険:JALカードの海外旅行保険
留学中の住まい:大学から徒歩圏内のホテル

プロフィール

山口県出身。神戸大学文学部で認知心理学と西洋美術史を専攻していたが、在学中にモザンビークで企業見学、インドでボランティアを行った経験から資源の限られた地域で医療を行いたいと進路を変更し、旭川医科大学医学部に2年次編入学。現在ポリクリ実習中で、先生方の働き方を知ったりこれからの医師の働き方について考えたりしながら、将来設計中。

 

サマリー

・進路がより具体的になった。

・積極的な行動で、患者さんのためにアウトプットできる知識が身につくことを体感できた。

・大切な友人(先輩医師)に出会えた。

Q1. 留学中にカリキュラムで学んだことについて

最初の2週間はバンコクの大学病院で講義と実習、後半の2週間は郊外の一般病院で地域の熱帯医学感染症対策を学ぶというプログラムでしたが、人数の関係で今年は4週間ともバンコクの大学病院での実習となりました。

 

◆実習前半

・講義

講義ではマラリアやデング熱、日本脳炎など日本でもよく知られた熱帯病から、レプトスピラ症、類鼻疽やチクングニヤ熱など、日本では症例の少ないものも取り扱われました。マヒドン大学で経験した症例説明の形式で、顕微鏡で検体を観察しながらの少人数チュートリアルも行われました。

・病棟回診

熱帯病専門の病棟で6人程度に分かれて患者診察を行いました。先生はタイ語翻訳など最低限の介入をされ、問診・身体診察・血液検査から診断を推定し、その根拠・治療法・鑑別などを先生から質問され、最後に答え合わせと詳細な説明をされるという形式でした。

・市中病院、施設見学

Siriraj病院というタイ王国内最古の病院や、タイ赤十字内のSnake farmを、説明を受けながら見学しました。Siriraj病院内には解剖博物館があり、奇形児や臓器の標本を見学することができました。Snake farmでは、蛇の見学や蛇毒の血清を作るための毒の採取等を見学しました。

 

これらを通して、大きく学んだのは講義や実習に対する積極性で、より大きな学びが得られること、そしてそれなしに患者さんのためにはなりえないということでした。授業では生徒が自由に質問する雰囲気があり、特に欧米からの留学生や現役の医師の方々と講師との相互にコミュニケーションをとりながらの講義は印象的でした。「自分のせいで授業を止めちゃうって気持ちより、同じように疑問を持っていた人がいるかもしれないって思うから質問することに戸惑いはない」というオーストリアからの留学生の言葉から、知識不足からくる劣等感や遠慮の気持ちが軽減されたこともありました。

「何も発言しないことは存在していないと同等」、という言葉はよく聞きますが、実習中はその言葉を体感しました。というのも、分からない単語があったり病態機序がわからなかったりするせいで口ごもることがあり、心の中で鑑別疾患を挙げても、患者さんの診察が一向に進まず、これが実臨床であれば治療が行えないといったような状況であったからです。拙い説明ながら意見を伝えて留学生間でディスカッションをし、先生にプレゼンする中で、見当違いな発言もしたかもしれません。しかし、一つ一つの発言に対し丁寧な説明をしてくださった教育的な先生方のお陰で、将来診察にいかせる知識を得ることができました。

 

◆実習後半

マヒドン大学のTravel medicine科でタイの研修医1~3年目の先生方と一緒に研修を受けました。Travel medicineとは、渡航に際した感染症予防(ワクチン、マラリア予防薬処方、防虫対策など)、高山病やダイビングにおける減圧症、渡航中のメンタルヘルスなどを扱っています。研修では、「次の長期休みに南米に1カ月旅行に行くが、ワクチンは打ったほうがいいか。また、ウユニ塩湖に行くが高山病になるか?」といった質問に対しどのように診察を進めればいいかといったロールプレイを行いました。例えばブラジル旅行に行くにしても、旅行先が首都か郊外かで対策は変わるなど、実践的な予防医学について教えていただけました。

また、見学の中で、タイ旅行中に猿にひっかかれ、狂犬病を否定するために来院された患者さんがいらっしゃり、哺乳類接触の際に狂犬病を鑑別に挙げるなど、日本とは違った常識に触れることもできました。

Q2. カリキュラム以外の、留学先ならではの現地での生活について

毎日9;00~17:00のカリキュラムだったので、ほとんど毎日の夜と週末は友人たちと出かけていました。寺院観光やマーケットの買い物はもちろん、食生活も充実。日本では苦手だったパクチーが好きになり、マンゴーやマンゴスチンをマーケットで買って楽しみました。そんな楽しいタイ生活を教えてくれたのが、タイのドクター達でした。レストランやマッサージ、おすすめの観光スポットなど、たくさんのアドバイスをいただき、色々な場所に連れて行ってくれました。最終日には大型スーパーを回ってお土産選びも手伝ってくれて、ガイドブックでは知ることができなかったバンコクの魅力を教えてくれました。

ドクターたちとのご縁はありがたいことに続いており、妹さんと一緒に北海道に遊びにきてくれたドクターや、旭川医科大学に短期留学に来られたドクターもいらっしゃいます。このような出会いに恵まれ、この留学にきて本当に良かったと思います。

 

Q3. なぜその場所(国・大学)、その期間を選んだか

-場所について

将来途上国で医療を行う上で、熱帯医学は必須の学問であり、将来的にPh.D.を取得できたらと思っています。そこで、熱帯医学が世界的に有名で、日本人のPh.D.卒業生も多いマヒドン大学を選びました。

 

-期間について

長期の留学も考えましたが、すでに2回目の大学であり、卒業を遅らせることは避けようと思いました。そこで、休学をしない範囲で参加できるこのプログラムを選びました。

Q4. 留学に至るまでの準備について

―生活の準備

ホテルは大学から徒歩20分程度の場所を選びました。観光客も多い地域なので、宿泊先探しで困ることはないと思います。夏のバンコクの気温は40度を超えることもあるため、できるだけ大学に近いエリアを選ぶようにしました。最寄り駅にはショッピングモール、ホテル近くにはコンビニ(セブンイレブンが主流で日本語の商品も多くありました)もあるため、物資の現地調達も可能です。虫よけスプレーは現地にかなり効く商品がたくさんあるので試してみるといいと思います。

 

―熱帯医学の予習

旭川医科大学の寄生虫講座の先生に、長崎大学熱帯医学研究所の熱帯医学研修過程の授業資料(シラバス)をいただき、代表的な疾患について予習しました。

Q5. 準備、留学中の両方について、「こうしておけばよかった」と思う反省点と、自分なりに工夫してよかった点

―こうしておけばよかった

もっと、日本特有の疾患について予習していけたらよかったと思いました。こちらが学びに行く受け身の姿勢で行ってしまいましたが、タイの先生方は私たち学生からも多くの学びを得ようとされている姿勢が印象的でした。ツツガムシ病(リケッチア)、日本住血吸虫、日本脳炎など、授業で日本になじみのある疾患が登場したときの「日本ではどう?」という問いに日本の疫学や歴史、対処法の違いなどシェアできればよかったと思っています。

 

―工夫してよかった点

授業をスマートフォンで録音していた点と、各授業後に先生方からスライドをいただいた点です。実習でとても苦労したことの一つにタイ英語を聞き取れないことがあり、授業についていくことに苦労し、復習が必須だったため、音源と文面は重宝しました。

また、現地で安定したインターネット環境があるか不明であったため、医学事典の入った電子辞書を購入していきましたが、こちらも病棟回診中や外病院の見学中に理解の助けになりました。

Q6. 留学していた場所について

タイの首都バンコクは、言わずと知れたアジアの大都市です。1999年にできたBTSというモノレールが各区をつないでいるためアクセスも良く、昔ながらの青空マーケットから大型商業施設が立ち並ぶ地域まで、いろいろな楽しみ方ができる街でした。前年に大学近くのカフェで爆破テロがあったそうで治安の心配はありましたが、実際は夜も子供が出歩くような場所で、身の危険を感じることはありませんでした。

Q7. 留学中どのような人とかかわったか

最初の2週間は、タイの医師1人、日本人医師1人、大阪医科大学の学生2人、オーストリアの学生9人、台湾の学生1人と、後半2週間はタイの医師10人と共に実習を行いました。また、Ph.D.を取りに来られた日本とインドの医師ともお話しする機会が持てました。放課後は、ディナーを食べたりプールで泳いだり、買い物に行ったりと、とても楽しい時間を過ごしました。

熱帯医学を専攻されるということもあって、国際協力や途上国での医療に興味を持った方も多く、進路の選び方の参考になる話もできました。

Q8. 英語の能力はどう変化したか

前の大学で英語ディベートの部活に入っていたものの、長く英語にさらされるのは久しぶりでspeakingに苦手意識をもっていたため、英語を話す機会を多く持つよう心掛けました。1ヵ月という短い期間であったため大きな改善はできませんでしたが、speakingの勉強をするモチベーションを上げて帰ってくる結果になりました(それから毎日30分のオンライン英会話レッスンを受けており、帰国後→直近で、IELTSのspeaking試験は6.0→7.0にあがりました)。

Q9. 留学のメリット/デメリットについて

-得たもの

進路について指針を得ました。将来途上国で働く上で、どれくらいの期間勤務するためにはどの程度の熱帯医学の知識が必要なのか、といった具体的なビジョンが描けておらず、とりあえず必要だという程度しかわかっていませんでした。しかし、実際にその道にいらっしゃるドクターたちのお話を伺って、どの時期にどの程度学ぶ選択肢があるのかを知ることができました。

 

-失ったもの

お金でした。奨学金を利用するつもりでしたが、確認不足で出国前に提出せねばならなかった飛行機のチケット提出ができておらず受け取れなかったことは大きかったです。旭川医科大学では海外留学をする学生向けに、成績が上位1/2であれば10万円が支給される制度があります。他の大学にも成績に応じた奨学金があるかもしれないので、留学に興味があれば低学年の時から確認しておくのもいいかもしれません。

 

-得られなかったもの

郊外での実習経験です。インフラが安定していない、医療資源が限られた地域での感染症対策を見学したかったので、その点は残念でした。

Q10. 現地で苦労した話について

タイの独特の英語の聞き取りにかなり苦労しました(”ch”を”sh”として読むなど)。授業や実習はディスカッション形式が多かったので、年配のタイドクターの英語質問を聞き取れず何度も聞き直したり、若いタイドクターに教えてもらったりしてもついていけないことが多々ありました。最初、授業でTシャツについて話されているような気がしていましたが、最後のほうではteacherだったことがわかるようになりました。

Q11. 留学について意識し始めた時期とそのきっかけ

最初の大学在学中に、モザンビークで日本企業のCSR活動を見学したことと、インドでマザーテレサの家でボランティアを行った経験を通して、将来は資源の限られた地域で医療を提供していきたいと思っています。大学編入前から、学生が参加できる医療系NGOの活動に参加したいと思っており、どのような活動があるのか調べていました。編入前の大学在学中に読んだ、NPO法人宇宙船地球号代表の山本敏晴氏著『国際協力師になるために』より、かねてから熱帯医学の勉強が必要だとは知っていたので、編入後にこの留学プログラムを知り、応募を決めました。

Q12. 留学後の展望について

初期・後期研修を終え、専門医を取った後(医師6~8年頃)に再度マヒドン大学の公衆衛生学ディプロマを取りに行けたらと思っています。

Q13. 留学へ行く前の自分へのメッセージ

未定の2週間のためにもった多くの蚊対策グッズは、ただの荷物になります。それにバンコクでよりいいものが調達できますよ。荷物は減らしていきなさい。

Q14. 後輩へのメッセージ

私は、留学に行って後悔したという話は聞いたことがありません。行動することで自分にとっての初めてに出会えるチャンスだと思います。留学を決めている方は、自分ができるようになりたいことを明文化していくと、得るものがより大きくなると思います。

Q15. その他、言い残したことがあればどうぞ

改めて、インプットの大切さを学びました。これまでにインドとミャンマーで2~4週間のボランティア活動に参加したことがあり、その時は専門知識をもった人の下で専門知識がなくてもできること(洗濯や手術のための電気持ちなど)をしていました。今回留学を通して熱帯医学を学んだことで、これまでのボランティア活動で自身が感染症のリスクを防げていなかったことや、行っていた作業の意義に気付けることがありました。将来途上国での医療活動を行っていきたいと思っているので、自分が誰かのためになるために、行動することに加えてアウトプットできる知識を持つ重要性を再認できました。

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