
南洋理工大学医学部 -相庭昌之さん-
一問一答コーナー
名前:相庭 昌之(Masayuki Aiba)
所属大学・学年:北海道大学医学部医学科6年
留学先の国:シンガポール
留学先の大学(機関):南洋理工大学 医学部
留学の期間:2018年6月(医学科6年次)
留学の目的:臨床実習
留学の費用(概算):45万円
-学費:7万5千円
-家賃:21万円
-生活費:3万円
-渡航準備(保険、航空券、Apartmentのdepositなど):12万円
プログラム(仲介してくれた機関/人):北海道大学医学部医学科のカリキュラム
利用した奨学金:無し
留学中の住まい:ホテル
プロフィール
北海道生まれ、北海道育ち。大学4年生までは将来について深く考える機会はなかったが、4年生の時にたまたま参加した勉強会で身体診察や抗菌薬の適正使用について学び、医療における正しい選択(choosing wisely)に興味を持つ。そこから、医学生の間にこのような視点を身につける教育とはどのようなものか考えるようになる。現在は6年生で国家試験の勉強中。将来は血液内科を専攻しつつ、より有意義な教育とはどのようなものかを考えていきたいと思っている。
サマリー
・学生時代でしかできない経験ができた
・世界の基準を知って、日本との相違点を考えられた
・広い世界に目を向けることが大事
Q1. 留学中にカリキュラムで学んだことについて
2018年の6月に1か月ほど、大学の単位を取得しながら海外で留学できる大学の制度を利用して、自分が通う大学と提携している南洋理工大学医学部に留学してきました。私は臨床留学という形だったのですが、内分泌糖尿病内科と皮膚科でそれぞれ2週間ずつ実習をさせていただきました。大学間の協定上、実際に患者さんに問診をとったりすることができず診療の見学をメインにさせていただきましたが、日本とは違う診療風景から様々なことを学んできました。
内分泌糖尿病内科では、各種内分泌疾患の診断や治療について、またシンガポールにおける糖尿病の疫学やインスリン治療について学んできました。1日の流れとしては、朝に病棟患者の回診をして、そのあとは外来に陪席させていただきながら先生にご指導していただく形で毎日夕方5時ころまで実習させていただきました。糖尿病の外来管理では、医師が問診をする部屋のほかにも栄養士が栄養指導をする部屋や看護師がインスリンの打ち方や医療費助成の申請について説明する部屋が設けられていて、日本よりも他職種の裁量が大きい印象を受けました。
皮膚科でも同じ形で皮膚疾患の管理について学ばせていただきました。基本的に朝から晩まで外来患者の皮膚を観察させていただきながらの実習でした。皮膚科の実習の最大の学習は、日本で行われている治療が必ずしも絶対ではないということです。例えば尋常性乾癬という角化症に対して、シンガポールではメトトレキサートが標準的に用いられていましたが日本では承認されていません。そのためシンガポールでの治療を求めて日本から受診に来た患者さんにも会うことができました。実習中には日本ではなかなか経験できない性感染症のクリニックでも実習させていただきました。
シンガポールは日本のような政府が運営する社会保険制度が存在しないので、患者もセルフケアの意識が高いような印象を受けました。また患者一人当たりの診察時間は平均10分ほどであり、医師も夕方には帰宅していたことから日本との医師の労働環境の違いを見ることができました。
Q2. カリキュラム以外の、留学先ならではの現地での生活について
今回の留学で大学からは宿舎や寮を斡旋されることはありませんでした。シンガポールには日本のような賃貸のマンスリーマンションが少なく、あったとしても1か月で20万円ほどはするようだったので、私はホテルに1か月滞在することを選択しました。食事については街中のいたるところにホーカーセンター (屋台の集まっている場所) があり、様々な国のメニューを安く食べることができるので食事に飽きることはなかったです。シンガポールは多民族国家なのでイスラム系の方も多く、イスラム教の教えに反することをしないよう心がけていました。
平日の夕方以降は完全に自由だったのと、週末は基本的に実習がなかったので、その日の復習をしつつ、同じ時期に留学した友達と共にシンガポールの街を散策したりバーに行ったりとプライベートも充実していました。マレーシアにもバスや航空機が頻繁に出ているため、クアラルンプールまで旅行に行ったりもしました。
Q3. なぜその場所(国・大学)、その期間を選んだか
-場所について
私が今回留学に行きたいと思った理由は2つあります。1つ目は、いずれ大学院を出て海外で研究することになった際の予行演習をしたかったためです。2つ目は、日本に来た留学生と会話する中で海外の臨床実習の様子を知りたかったためです。留学先を選ぶにあたり、自分は海外旅行や在住の経験がほとんどなく、自分の英語に自信があまりなかったので、まずはアジア圏の大学からと思って大学の担当部署の先生と相談させていただき、シンガポールの大学を選びました。あとはアジアで1番の大学がシンガポールにあり、そこでどのような教育が行われているかについて興味があったこともシンガポールに興味を持った理由の一つです。
-期間について
大学の協定で大学6年生の6月ということが決まっていたので、この時期に1か月行ってきました。
Q4. 留学に至るまでの準備について
留学をするにあたり、留学の1年前に大学の国際担当部署に留学希望の旨を提出し、そこから実習科の選択や各種書類の提出が始まりました。最初に履歴書や応募書類を提出し、次に希望診療科を提出しましたが、最初の希望が満員で受入れていただけず診療科決定が難航したため、実際に診療科が決定したのが留学の半年前でした。そこからは留学先から指定されたとおりに、海外留学保険やワクチンの抗体価検査や追加接種、ワークホリデービザの申請、N95マスクテストなどを行い、その書類を作成しました。航空機や宿泊先を予約するのは、正式に受け入れ決定の連絡が来てから行った方がよいと思います。なお今回の留学では英語のスコアは求められなかったので、英語に関しては日常会話と基本的な医療用語程度しか練習していませんでした。
Q5. 準備、留学中の両方について、「こうしておけばよかった」と思う反省点と、自分なりに工夫してよかった点
留学中はもっと自分から積極的に先生や現地の人とコミュニケーションをとればよかったと思いました。なぜなら、シンガポールの先生方は自分から質問をしていかないと構っていただけないことが多かったからです。ただ先生方は総じて教育熱心であり、1を聞いたら10返ってきました。現地の人は意外にも気さくで親切なので、道を尋ねても親切に答えてくれました。
良かった点としては、準備段階で不安に思ったことは逐一大学に確認するようにしたことです。このおかげで書類の再提出や不備がなく準備をすることができました。海外では国ごとに接種するワクチンやビザの申請など留学生に求められている準備に多少の違いがあるので、それを逐一確認しながら進めた方がよいと思いました。
Q6. 留学していた場所について
自分が留学していたシンガポールは都市国家なので、非常にコンパクトな国だという印象を受けました。ただ、中華系、インド系、イスラム系の人が暮らす地域というのはある程度区別されていたので、地域によって街の雰囲気はけっこう違いがあります。赤道直下なので1年を通じて30℃ほどの気温になりますが、冬はわずかながら涼しいみたいです。あとは毎日のように夕方はスコールが降りましたが夜にはやむので、仕事が終わって屋外で飲む現地の人をしばしば見かけました。物価については、車と住宅(ホテル)は高いですが、食料品や公共交通は日本よりも安い印象を受けました。
Q7. 留学中どのような人とかかわったか
留学中は現地の学生と異なるカリキュラムが組まれたので、学生とはあまり関わることができませんでした。それでも病院で会った時には学生も忙しそうにしており、現地の医学生は低学年のうちから熱心に勉強しているなという印象を受けました。現地に住む日本人の駐在員とワールドカップを観たり、現地の医師と食事に行ったりと、大学以外でも交流を持つことができました。
Q8. 英語の能力はどう変化したか
留学にあたりTOEFLやIELTSなどの公式結果は提出を求められなかったのですが、なんとなく留学前に受けたTOEFL ITPの結果は590点でした。たぶん今受けてもそれほど点数は変わらないと思います。むしろ英語の日常会話では、現地の人との会話から相槌や口語表現を日々取り入れることができ、英会話はスムーズになったと思います。現地の人は英会話にあたり細かい文法を気にしないので、とりあえずしゃべってみることが重要ではないかと思いました。
Q9. 留学のメリット/デメリットについて
-得たもの
言葉で表せないくらいのことを肌で感じることができました。日本の医療が海外では必ずしも当たり前ではないということを実際の現場を見て学ぶことができたことはこの上ない収穫です。
-失ったもの
留学した時期がマッチングの準備期間と重なったため、マッチング受験準備には時間を割くことができませんでした。6年生での留学の場合、留学前に筆記や書類の準備はできるところまで進めておくとよいかもしれません。
-得られなかったもの
現地の患者とは協定上話すことができなったので、英語での問診や文献検索はできませんでした。
Q10. 現地で苦労した話について
英語を聞く能力に優れているわけではないので、特にシンガポールに到着した直後は英語を理解するのに苦労しました。担当の先生には何度も聞き返してしまって、たまに苦笑いされましたが笑。またフードコートで中国語しか話せない店員と話した時には、何とか身振り手振りで注文したのを覚えています。
Q11. 留学について意識し始めた時期とそのきっかけ
留学について意識し始めたのは5年生に進級する直前の春休みですが、その時にとある研修病院におけるセミナーに参加して、海外医療に興味を持ったのがきっかけです。当時は感染症内科に興味があり、自分から海外で研修を積もうと考え始めました。将来は学位を取った後に留学することを考えていましたが、やるべきことがたくさんある中でいきなり海外の生活となると慣れないことが多いかと思い、学生のうちに海外の生活や文化を経験して将来の留学に備えようと思い、留学することにしました。
Q12. 留学後の展望について
今回の留学で海外の医療がどのように行われているかが分かったので、今後は日本だけでなく世界の視点から物事を眺めていきたいと思います。少し垣間見ることができたシンガポールの医学生の教育現場から学んだシステムについても、日本で導入できないか考えていきたいです。
Q13. 留学へ行く前の自分へのメッセージ
留学に行く前は本当に1か月間海外で過ごせるのか不安だった自分に対して、英語や海外生活に対してあまり深く心配する必要はないと伝えてあげたいです。Take it easy!
Q14. 後輩へのメッセージ
留学という言葉を聞いて、少しでも興味がある人は、まずは話だけでも聞いた方がいいと思います。北海道大学の場合、海外から来る学生の数に比べて北大から留学に行く学生の数は明らかに少なく、国際部署も海外への挑戦を応援してくださる雰囲気があります。
Q15. その他、言い残したことがあればどうぞ
私は現在Choosing Wisely Japan Student Committeeに所属し、過剰医療の是正や医療資源の適正使用について考察をしています。よければこちらもご参照ください。